Millwood IY*, Walters RG, Mei XW1, Guo Y, Yang L, Bian , Bennett, Chen Y1, Dong C, Hu R, Zhou G, Yu B, Jia W, Parish S, Clarke R, Davey Smith G, Collins R, Holmes MV, Li L, Peto R, Chen Z; China Kadoorie Biobank Collaborative Group
*Medical Research Council Population Health Research Unit, Nuffield Department of Population Health, University of Oxford, Oxford, UK; Clinical Trial Service Unit and Epidemiological Studies Unit, Nuffield Department of Population Health, University of Oxford, Oxford, UK.
Lancet. 2019 Apr 4. pii: S0140-6736(18)31772-0. doi: 10.1016/S0140-6736(18)31772-0.
飲酒量と心脳血管系疾患の発症率との関係については、中等量飲酒者の発症率が最も低いU字型であるとの多くの疫学研究の報告がある。飲酒パターンには、2つ遺伝子変異などの要因が深く影響している。2004年6月25日から2008年7月15日、中国10地域の512,715人のChina Kadoorie Biobankの登録者を2017年1月1日まで追跡し、飲酒習慣とその発症率の関係を分析した。心脳血管系疾患の発症や死亡の情報は、疾病登録データーベースからと電子診療録データから得た。アルコール代謝酵素の2つの変異体「ALDH2-rs671」及び「ADH1B-rs1229984」を用いた。この遺伝子変異を持つ者の割合は東アジアの人種に高いことが知られている。遺伝子変異を持つ者は161,498人であった。分析は、飲酒量は自己報告飲酒パターン(以下、従来型飲酒量)及び遺伝子型で予測される飲酒量(以下、予測型飲酒量)の2種類を使い、コックス回帰分析法を用いて行った。飲酒習慣者は、男性33%(69,897/210,205)、女性2%(6245/302,510)であった。男性の発症者は、脳梗塞(n=14,930)、脳出血(n=3,496)及び急性心筋梗塞(n=2,958)であった。従来型の飲酒量別の各疾患の発症率はU字型であった。3疾患とも「非飲酒者」や「多量飲酒者」よりも週飲酒量約100 g(1・2杯/日)の「中等量飲酒者」の発症率が最も低かった。しかし、予測型飲酒量で発症率を分析するとU字型とはならなかった。予測型飲酒量が増えると脳卒中の発症率が対数線形で高くなった。脳梗塞(RR:1.27、CI:1.13 - 1.43、p=0.0001)よりも脳出血(RR:1.58、CI:1.36 - 1.84、p<0.0001)により強い関連がみられた。しかし、心筋梗塞の発症率は予測型飲酒量が増加しても有意な上昇は見られなかった(週280g多量飲酒者:RR:0.96、CI:0.78 - 1.18、p=0.69)。男性では予測型飲酒量と収縮期血圧との間に強い正の関連が認められた(p<0.0001)。女性については、飲酒者が少なく、そのため予測型飲酒量の算出はできず、また血圧、脳卒中又は心筋梗塞との関係に明確な正の相関は認めなかった。
コメント
健康リスクは長期間にわたる疫学のコホート研究により明らかにされている。一般的には、タバコのように喫煙本数が増えると肺がんの発症率が高くなるという量反応関係が見られる。しかし、飲酒量については量反応関係がみられないとされてきた。アルコールはその代謝関連の酵素の変異があり、それを加味して分析すると、アルコールも血管系疾患との間にも量反応関係があることを示した研究であった。遺伝子分析が可能となったことにより、生活習慣は単に社会経済的環境(社会要因)要因で規定されていると考える傾向にあるが、内的環境(生物学的)要因も含めて理解する必要があると啓示する研究結果であると感じた。
監訳・コメント:関西大学 社会安全学研究科 公衆衛生学 高鳥毛 敏雄先生
PudMed:
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30955975