Sabia S1, Fayosse A, Dumurgier J, Schnitzler A, Empana JP, Ebmeier KP, Dugravot A, Kivimäki M, Singh-Manoux A.
1Inserm U1153, Epidemiology of Ageing and Neurodegenerative diseases, Université de Paris, 75010 Paris, France severine.sabia@inserm.fr.
BMJ. 2019 Aug 7;366:l4414. doi: 10.1136/bmj.l4414.
認知症の発症には遺伝的要因だけでなく、若い時からの健康習慣や健康状態の多様な要因が関係し、それが病態生理学的な変化をもたらして発症するものと考えられる。その仮説を裏付ける一貫した証拠がこれまでの観察研究からは得ることができていない。そこで健康な状態の多数の者を若い時期から追跡して認知症の発症リスクとの関連性を検討することとした。対象は、ロンドンにある政府人事局が設定している国家公務員コホート(Whitehall II(1985 - 88年設定))の中の者から50歳時点の心血管系健康状態のデータがそろっている7,899人とした。
心血管系健康状態の評価は、健康行動の4つ指標(喫煙、食事、身体活動、肥満度指数)と生物学的検査の3つの検査値(空腹時血糖値、血中コレステロール値、血圧値)の7つの各項目を用いて、各項目は3段階の尺度(0、1、2)でスコア化し、その合計値(0 - 14)をもとに、「不良群」(スコア0 - 6)、「中程度群」(7 - 11)及び「至適群」(12 - 14)の3群に分類して、認知症の発症リスクを検討した。認知症の発症者の把握は、イギリスの病院およびメンタルヘルスサービス利用者の診療データと死亡診断データを使い、2017年までの記録を使った。追跡期間中に347例の認知症の発症者が把握できた。追跡期間の中央値は24.7年であった。認知症の1,000人年あたり発症率を3群間で比較した。不良群は、3.2(95%CI:2.5 - 4.0)であった。この不良群と他の群との絶対値の差を計算した。中程度群では、-1.5(-2.3 - -0.7)、至適群では、-1.9(-2.8 - -1.1)であった。心血管系健康状態スコア(以下、健康スコアと略す)が高くなると発症リスクが低下した。健康スコアが1ポイント増加するとハザード比が0.89(0.85 - 0.95)と低下した。健康行動及び生物学的の各々の下位尺度の者の健康スコアが1ポイント増加するとハザード比が0.87(0.81 - 0.93)及び0.91(0.83 - 1.00)低下した。心血管系疾患を有さない者に限った分析でも健康スコアが1ポイント増加するとハザード比が0.89(0.84 - 0.95)低下した。
コメント
認知症の発症には健康習慣や健康状態などに規定されていることがこれまでの短期間の観察研究では一貫した結論には到っていなかった。長期にわたる前向きのコホートを使った本研究によりその関連性が明確に示された。つまり、50歳時点の心血管系の健康スコア(Life Simple 7)が25年後の認知症の発症率に影響していることが示されたのである。本研究は、超高齢社会において増加することが不可避とされている認知症について、若い頃からの健康習慣の改善や健康管理を徹底することにより低減できる可能性があることを示すものである。
監訳・コメント:関西大学 社会安全学研究科 公衆衛生学 高鳥毛 敏雄先生
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