難病Update

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コホート研究終末期医療/ターミナルケア統合失調症

2020.01.04

統合失調症の有無によるがん患者の終末期の医療とケアの比較:フランス国立病院データベースによる地域住民に基づいたコホート研究

End-of-life care among patients with schizophrenia and cancer: a population-based cohort study from the French national hospital database

Fond G1, Salas S, Pauly V, Baumstarck K, Bernard C, Orleans V, Llorca PM, Lancon C, Auquier P, Boyer L

1Centre d'Eacute;tude et de Recherche sur les Services de Santé et la Qualité de Vie, Aix-Marseille University, Marseille, France; Department of Medical Information, Assistance Publique-Hôpitaux de Marseille, Marseille, France; Department of Epidemiology and Health Economics, Assistance Publique-Hôpitaux de Marseille, Marseille, France. Electronic address: guillaume.fond@ap-hm.fr.

Lancet Public Health. 2019 Nov;4(11):e583-e591. doi: 10.1016/S2468-2667(19)30187-2.

 統合失調症患者は、社会的な援助や支援と治療が不十分な健康格差のある代表的集団として知られている。がん患者についても統合失調症を有すると終末期の医療やケアの提供のされ方に違いがあるのか、調査研究を行った。対象者は、2013年1月1日 - 2016年12月31日に進行がんと診断され、フランスの病院で死亡した15歳以上のすべての患者である。統合失調症患者を有する者を症例群と精神疾患と診断されていない者を対照群として、がん患者の緩和ケアへのアクセスの状況、終末期に高度の専門的医療の受療状況を評価指標として比較した。死亡時の年齢、性別、原発癌部位などを対応させて、症例1人に対し対照として4人を選んだ。分析は、社会的剥奪状況、死亡年、がんの診断から死亡までの期間、転移の有無、合併症及び受療している医療機関の種別(専門医によるがんセンターか、非専門医による医療施設かなど)などを補正して分析した。最終的に、統合失調症患者2,481例と対照者222,477例の中で、症例群は統合失調症患者2,477例、対照群は9,896例とした。その結果、統合失調症患者において、終末31日間に終末期ケアを受けていた者が多かった(補正オッズ比1.61[95%CI 1.45 - 1.80]、p<0.0001)。しかし、化学療法や手術などの積極的に医療が施されていた者が少なかった。また、統合失調症患者では、死亡年齢が若く、がんと診断されてから死亡までの期間が短かった。また、呼吸器系のがん患者、および合併症を持つ患者の割合が高かった。

コメント
 統合失調症患者ががんを発症すると、終末までの医療やケアの提供され方に違いがあることを示す論文であった。精神疾患を有するがん患者に対して、積極的な医療が行われず、終末期ケアだけに留めている現実が示された。これらのことは、精神疾患患者に限らない可能性がある。この状況を是正していくために、様々な疾患を有する患者における医療内容について健康格差の視点から深く理解する必要性がある。医学や生命科学に巨額な研究資金が投じられ、医療に応用されてきているが、その進歩をすべての人々が享受できる社会とすることも大切なことである。
監訳・コメント:関西大学 社会安全学研究科 公衆衛生学 高鳥毛 敏雄先生
PudMed:
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