医療制度
2020.02.18
英国の医療制度(NHS)と高所得国の医療制度のパーフォーマンスの比較評価
Performance of UK National Health Service compared with other high income countries: observational study
Papanicolas I1, Mossialos E, Gundersen A, Woskie L, Jha AK
1Department of Health Policy, London School of Economics and Political Science, London, UK I.N.Papanicolas@lse.ac.uk.
BMJ. 2019 Nov 27;367:l6326. doi: 10.1136/bmj.l6326.
英国は戦後、医療サービスの公平性を考えたNHSという公的な医療費負担なしで受療できる医療制度としている。英国の医療制度をオーストラリア、カナダ、デンマーク、フランス、ドイツ、オランダ、スウェーデン、スイス及び米国の9か国と比較評価を行った。評価項目は、医療の人口カバー率、保健医療費の支出割合、医療体制の構造、医療サービスの利用率、受診機会の公平性、医療の質、国民の健康水準、の7領域79指標である。データは、欧州統計局(Eurostat)及び経済協力開発機構(OECD)の二次データを用いた。英国の一人当たり医療費支出額(2017年)は、平均の5,700ドルに対して3,825ドルと最も低かった。GDPに対する支出増加率は平均の0.07%に対して0.02%と伸びは小さかった。英国の入院利用水準は平均的であったが、入院ニーズには最も対応できていた。入院患者一人当たりの医師と看護師の人数が最も少なかった。平均寿命は、平均81.7歳に対し81.3歳とわずかに短かった。がんの生存率(乳、子宮頸部、結腸及び直腸)はわずかに低かった。腹部手術後の敗血症患者発生率(10万人当たり)は、平均2,058例に対して2,454例と高かった。急性心筋梗塞の死亡率(退院30日以内)は平均の5.5%に対し7.1%、虚血性脳卒中の死亡率は、平均の6.6%に対して9.6%と、いずれもわずかに高かった。いくつかの医療の質は劣っていたが、関節手術後の深部静脈血栓症発生率は平均より低く、また医療関連感染症発生率も低いなど優れたものもあった。今後、医療費の支出をもう少し増やして、医療従事者数を増やし、慢性患者に対する医療サービス量を増していく必要があると示唆された。
コメント
英国は、戦後、医療は国民に公平に平等に提供されるべき基本的サービスであることから、病院を国営化して無料ですべての国民が医療サービスを受けられる制度とした。しかし、国営であることにより医療の質や効率性が大幅に低下した。そのため、競争原理や市場原理を導入した大改革を進めてきた。その結果、本研究で、英国の医療水準がOECDの主要国と比べて医療水準は遜色ない状態に回復していること、コストパフォーマンスについては最も高い水準にあることが明らかに示されている。日本の医療サービスのコストパフォーマンスも高いと評価されている。しかし、医療サービスの患者負担を低減すること、医療サービスの公平性を高めることの政策が進められているとは言えない。日英両国の間で医療サービスの社会的な位置づけ方に大きな相違があるように思われる。
監訳・コメント:関西大学 社会安全学研究科 公衆衛生学 高鳥毛 敏雄先生
PudMed:
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