難病Update

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)

2020.06.09

新型コロナウイルス感染症におけるミラーフィッシャー症候群および多発性脳神経炎

Miller Fisher Syndrome and polyneuritis cranialis in COVID-19

Gutiérrez-Ortiz C1, Méndez A, Rodrigo-Rey S1, San Pedro-Murillo E, Bermejo-Guerrero L, Gordo-Mañas R, de Aragón-Gómez F1, Benito-León J

1Department of Glaucoma and Neuro-Ophthalmology, University Hospital "Príncipe de Asturias", Alcalá de Henares, Madrid, Spain.

Neurology. 2020 Apr 17. pii: 10.1212/WNL.0000000000009619. doi: 10.1212/WNL.0000000000009619. Online ahead of print.

 重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(severe acute respiratory syndrome coronavirus-2:SARS-CoV-2)に感染し、急性にミラーフィッシャー症候群または多発性脳神経炎を呈した2例を報告する。Príncipe de Asturias大学病院および12 de Octubre大学病院の診療録から患者データを収集した。
 1例目は50歳男性で、嗅覚消失、味覚消失、右核間性眼筋麻痺、右動眼神経核下性線維の部分的麻痺、運動失調、深部腱反射消失、蛋白細胞解離、GD1b-IgG抗体陽性が認められた。5日前に咳嗽、倦怠感、頭痛、腰痛、発熱が出現していた。2例目は39歳男性で、味覚消失、両側外転神経麻痺、深部腱反射消失、蛋白細胞解離を呈した。3日前に下痢、微熱、全般的な体調不良が出現していた。口咽頭拭い液を用いた定性リアルタイム逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応法による新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)の検査ではいずれの患者も陽性であり、脳脊髄液を用いた検査では陰性であった。1例目の患者には静注で免疫グロブリンが投与され、2例目の患者にはアセトアミノフェンが投与された。2週間後、いずれの患者も神経学的に回復したが、1例目の患者には嗅覚消失と味覚消失が残った。

コメント
 WHOは、新型コロナウイルス感染症の正式名称を「COVID-19」とし、ウイルス名については、国際ウイルス分類委員会が、SARS(重症急性呼吸器症候群)を引き起こすウイルス(SARS-CoV)の姉妹種であるとして「SARS-CoV-2」と名付けた。COVID-19感染症での神経合併症も散見されるが、本報告の2例は、COVID-19パンデミックにおけるフィッシャー症候群例と多発性脳神経炎例で、死者を多く出したスペインからのものである。
 1例目のフィッシャー症候群は急性の外眼筋麻痺、運動失調、深部腱反射消失を三徴とする免疫介在性ニューロパチーであり、多くは上気道系感染後に発症し、1 - 2週間進行した後に自然経過で改善に向かうという単相性の経過をとる。先行感染、髄液蛋白細胞解離などギラン・バレー症候群(GBS)と共通する特徴が見られることから、国際医学業界の中では同症候群の亜型と考えられている。患者血清から高頻度にガングリオシドGQ1bIgG抗体が検出されることが報告され、眼運動神経(動眼神経、外転神経、滑車神経)に、傍絞輪部ヒト後根神経節の大型細胞、Iaニューロンの障害が、それぞれの病態と関連していることが、想定されるようになった。今回の報告は、抗GQ1bIgG抗体ではなく、抗GD1b-IgG抗体であったが、COVID-19に対する何らかの異常な免疫反応が惹起され神経学的症状が生じた可能性も否定できない。COVID-19患者における神経合併症の臨床スペクトルの特徴は依然として明らかになっていないが、GBSの亜型には、フィッシャー症候群のほか、意識障害を伴う脳幹脳炎であるBickerstaff型脳幹脳炎の合併もあり、COVID-19感染症の経過で意識障害が出現した場合の一つの鑑別に入れるべき症候群であり、注意を喚起する報告と考えられ、取り上げた。
監訳・コメント:国立病院機構 大阪南医療センター 神経内科 狭間 敬憲先生
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