難病Update

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2020.06.09

レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系阻害薬(RAAS阻害剤)とCovid-19の感染リスク及び重症化リスクの検討

Renin-Angiotensin-Aldosterone System Blockers and the Risk of Covid-19

Mancia G1, Rea F, Ludergnani M, Apolone G, Corrao G

1From the University of Milano-Bicocca (G.M.), the National Center of Healthcare Research and Pharmacoepidemiology (F.R., G.C.) and the Unit of Biostatistics, Epidemiology, and Public Health, Department of Statistics and Quantitative Methods (F.R., G.C.), University of Milano-Bicocca, Azienda Regionale per l'Innovazione e gli Acquisti (M.L.), and Fondazione IRCCS Istituto Nazionale dei Tumori (G.A.), Milan, and Policlinico di Monza, Monza (G.M.) - all in Italy.

N Engl J Med. 2020 May 1. doi: 10.1056/NEJMoa2006923. Online ahead of print

 コロナウイルスは、動物実験では、肺・心臓・腎臓などの細胞膜結合型のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)の受容体を侵入路としているとの報告がある。アンジオテンシン受容体遮断薬(以下、ARB)とアンジオテンシン変換酵素阻害薬(以下、ACEI)などのレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)の阻害剤は、高血圧、心不全、心筋梗塞や慢性腎疾患の第一選択薬として使われている。この薬剤がウイルス感染症の感受性に影響を与えているとすれば大変である。そこで、イタリア・ロンバルディア州で、2020年2月21日から3月11日の間に新型コロナウイルスの感染者6,272例を「症例群」とし、地域の医療データベースの中から性別、年齢、居住自治体をマッチさせて抽出した30,759人を「対照群」とした症例対照研究を行い、薬剤と感染者のCovid-19への感染・発病と重症化について評価しようとしたものである。分析はロジスティック回帰を使った。
 症例群と対照群の平均年齢は68歳、女性が37%であった。症例群の方が、ACEI及びARBの使用頻度が高かった。症例群の方が臨床データの値が悪かった。症例群と対照群との比較からARB又はACEIの使用状況とCovid-19の感染感受性が高まるとの関連性は認められなかった(ARB:0.95[CI 0.86 - 1.05]、ACEI:0.96[CI 0.87 - 1.07])。重症や致死的な疾患の経過を有する症例に限って分析をしても薬剤使用とCovid-19との関連性は認められなかった(ARB:0.83[CI 0.63 - 1.10]、ACEI:0.91[CI 0.69 - 1.21])。性別でも関連性は認められなかった。Covid-19患者は心血管疾患有病率が高いため、ACEI及びARBの使用頻度は症例群の方が高かったが、ACEI又はARBの使用が、Covid-19の感染感受性や重症化リスクに影響しているという結果は得られなかった。

コメント
 新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の流行は世界に広がり続けている。西欧社会で最初にイタリアで多数の感染者と死亡者を出している。その中でも最も感染者数が多いロンバルディア州で行われた研究である。RAAS系の薬剤は使用患者が多く、中止すると合併症や死亡に至る者が増加する。そこで、RAAS系薬剤の使用が、新型コロナウイルス感染症の感染や重症化に影響を与えているのか至急検討が必要で実施されたものである。イタリアは公営の医療制度を運用している。地域の保健当局が受診患者のデータベースをつくり、RAAS系阻害剤と新型コロナウイルス感染症の感受性や重症化との関係を検討し、両者に関連が見られないという結果を示している。緊急事態の中で、このような評価研究を行い、しかも早急に報告していることには驚くばかりである。
監訳・コメント:関西大学 社会安全学研究科 公衆衛生学 高鳥毛 敏雄先生
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