Julia R Dahlqvist1, Nanna S Poulsen, Sofie T Østergaard, Freja Fornander, Josefine de Stricker Borch, Else R Danielsen, Carsten Thomsen, John Vissing
1From the Copenhagen Neuromuscular Center (J.R.D., N.S.P., S.T.Ø, F.F., J.d.S.B., J.V.), Section 3342, Department of Neurology, and Department of Radiology (C.T.), Rigshospitalet, Copenhagen University; and Department of Radiology (E.R.D., C.T.), Zealand University Hospital, Roskilde, Denmark. julia.rebecka.dahlqvist@regionh.dk.
Neurology. 2020 Sep 1;95(9):e1211-e1221. doi: 10.1212/WNL.0000000000010155. Epub 2020 Jul 1.
顔面肩甲上腕筋ジストロフィー(facioscapulohumeral muscular dystrophy :FSHD)患者に対し2年間の経時的な検査を行って追跡し、炎症性病変が常に脂肪置換に先行するかどうか、筋肉の変性を伴わずに炎症が消失するかどうか、筋肉の炎症性病変ののちに常に脂肪交換が生じるかどうかを検討した。この縦断的研究では、FSHD患者10例を対象として2.5年間に10回の経時的なMRI評価を行った。筋肉の炎症を示す、高信号の関心領域(region of interest:ROI)を同定するため、MRIのshort TI inversion recovery(STIR)法を用いた。筋肉の炎症の定量的マーカーとして筋肉のT2緩和時間のマッピングを用いた。
FSHD患者でT2上昇を伴うROIを68領域同定した。研究期間中にT2上昇を認めた新たなROIでは筋脂肪含量が6.4% - 33.0%(n=8)で、47.0% - 78.0%(n = 6)で病変が変性した。T2上昇を伴うROIでは、筋肉のT2緩和時間が正常なROIと比較して、1 - 10回の検査で筋脂肪含量の増加率が高かった(7.9±7.9%)(1.7±2.6%、p<0.0001)。重度のT2上昇ののちには常に筋肉から脂肪への置換が促進されていた。
コメント
進行性筋ジストロフィーは、進行性の骨格筋変性・壊死とそれによる筋力低下を主症状とする遺伝性疾患で、本報告のFSHDは、常染色体優性の遺伝形式を取る。主として第4番染色体のテロメア(染色体の末端)近傍にあるゲノム反復配列(D4Z4)の繰り返し部分に欠失があり、繰り返し回数が減少している。このD4Z4の繰り返しの減少のFSHDの病態への関与は、まだ十分に解明されていないが、今回の報告で、FSHDでは軽度に冒された筋肉から炎症が始まり、より早い筋肉変性と関連し、筋肉が完全に脂肪に置換されるまで持続することが示唆され、筋肉変性における炎症との関連性を示した。今回炎症病態の解析に用いられたMRIの妥当性や、症例数の増加など今後さらなる検討をすべき点もある。しかし、中枢神経が主として障害される神経難病の中にも、臨床的に、感冒などの炎症が引きがねで神経兆候の増悪することはたびたび経験する。変性疾患と炎症との病態における関連で興味があり、取り上げた。
監訳・コメント:国立病院機構 大阪南医療センター 神経内科 狭間 敬憲先生