Heike Jacobi1, Sophie Tezenas du Montcel, Sandro Romanzetti, Florian Harmuth, Caterina Mariotti, Lorenzo Nanetti, Maria Rakowicz, Grzegorz Makowicz, Alexandra Durr, Marie-Lorraine Monin, Alessandro Filla, Alessandro Roca, Ludger Schöls, Holger Hengel, Jon Infante, Jun-Suk Kang, Dagmar Timmann, Carlo Casali, Marcella Masciullo, Laszlo Baliko, Bela Melegh, Wolfgang Nachbauer, Katrin Bürk-Gergs, Jörg B Schulz, Olaf Riess, Kathrin Reetz, Thomas Klockgether
1Department of Neurology, University Hospital of Heidelberg, Heidelberg, Germany; German Center for Neurodegenerative Diseases (DZNE), Bonn, Germany. Electronic address: heike.jacobi@med.uni-heidelberg.de.
Lancet Neurol. 2020 Sep;19(9):738-747. doi: 10.1016/S1474-4422(20)30235-0.
脊髄小脳失調症(SCA)は常染色体優性遺伝性の神経変性疾患である。遺伝変異型SCA1、SCA2、SCA3、SCA6により運動失調の発現時期や進展の状況を検討した。対象者は、ヨーロッパ7カ国の14の拠点の専門医療施設の疾患情報を集約したRISCAコホートから選んだ。登録者の中のSCAのSCA1、SCA2、SCA3、SCA6の患者の血縁者(患者の子供または兄弟姉妹)を抽出した。対象者の選択条件は、まだ運動失調がなく、運動失調の重症度評価スケール(Scale for the Assessment and Rating of Ataxia[SARA])スコアが3未満の者とした。対象者の年齢は、SCA1、SCA2、SCA3の血縁者では18 - 50歳とし、SCA6の血縁者では35 - 70歳とした。被験者に対して、募集時、2年、4年、6年(±3カ月)に来所してもらい検査を行った。遺伝子検査結果は、参加者と試験担当医師ともに非公開とした。発症についての評価は、臨床的尺度、患者報告式の評価項目からなる質問票を用いた。運動失調や動作状態の評価は検査を実施して行った。運動失調の有りの判断はSARAスコアが3以上とした。
最終的に分析対象者は、2008年9月13日 - 2015年10月28日の302例の登録者の中で追跡調査期間中に1回以上の来院をした252例となった。内訳は、SCA1、SCA2、SCA3、SCA6の血縁者の人数と割合は、各々83例(33%)、99例(39%)、46例(18%)、24例(10%)であった。SCA1、SCA2、SCA3、SCA6の保有者の中で運動失調に進展した者は、各々50例中26例(52%)、37例中22例(59%)、26例中11例(42%)、15例中2例(13%)であった。運動失調に進展した者は、SCA1、SCA2の非保有者では各々33例中1例(3%)、62例中1例(2%)であった。SCA6変異の非保有者は少なかったため分析できなかった。運動失調症状の進展に関連するリスクについては、SCA1では年齢(ハザード比1.13(95CI 1.03 - 1.24))、CAGリピートの長さ(1.25(1.11 - 1.41))、運動失調の信頼率(1.72(1.23 - 2.41))であった。SCA2では年齢(1.08(1.02 - 1.14))、CAGリピートの長さ(1.65(1.27 - 2.13))、SCA3では年齢(1.27(1.09 - 1.50))、信頼率(2.60(1.23 - 5.47))、複視(14.83(2.15 - 102.44))であった。遺伝子変異保有者ではSARAスコアは時間とともに上昇したが、非保有者ではスコアの変化は乏しかった。SCA1、SCA2、SCA3の遺伝子変異の保有者におけるSARAの進行は非線形であった。運動失調が発現まで緩やかで、発現後進行が増大していた。