難病Update

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コホート研究脊髄小脳失調症

2020.10.06

脊髄小脳失調症(SCA)の1、2、3、6型遺伝子変異保有の症状発現時期とその進展に関する検討:RISCAコホートを使った追跡研究

Conversion of individuals at risk for spinocerebellar ataxia types 1, 2, 3, and 6 to manifest ataxia (RISCA): a longitudinal cohort study

Heike Jacobi1, Sophie Tezenas du Montcel, Sandro Romanzetti, Florian Harmuth, Caterina Mariotti, Lorenzo Nanetti, Maria Rakowicz, Grzegorz Makowicz, Alexandra Durr, Marie-Lorraine Monin, Alessandro Filla, Alessandro Roca, Ludger Schöls, Holger Hengel, Jon Infante, Jun-Suk Kang, Dagmar Timmann, Carlo Casali, Marcella Masciullo, Laszlo Baliko, Bela Melegh, Wolfgang Nachbauer, Katrin Bürk-Gergs, Jörg B Schulz, Olaf Riess, Kathrin Reetz, Thomas Klockgether

1Department of Neurology, University Hospital of Heidelberg, Heidelberg, Germany; German Center for Neurodegenerative Diseases (DZNE), Bonn, Germany. Electronic address: heike.jacobi@med.uni-heidelberg.de.

Lancet Neurol. 2020 Sep;19(9):738-747. doi: 10.1016/S1474-4422(20)30235-0.

 脊髄小脳失調症(SCA)は常染色体優性遺伝性の神経変性疾患である。遺伝変異型SCA1、SCA2、SCA3、SCA6により運動失調の発現時期や進展の状況を検討した。対象者は、ヨーロッパ7カ国の14の拠点の専門医療施設の疾患情報を集約したRISCAコホートから選んだ。登録者の中のSCAのSCA1、SCA2、SCA3、SCA6の患者の血縁者(患者の子供または兄弟姉妹)を抽出した。対象者の選択条件は、まだ運動失調がなく、運動失調の重症度評価スケール(Scale for the Assessment and Rating of Ataxia[SARA])スコアが3未満の者とした。対象者の年齢は、SCA1、SCA2、SCA3の血縁者では18 - 50歳とし、SCA6の血縁者では35 - 70歳とした。被験者に対して、募集時、2年、4年、6年(±3カ月)に来所してもらい検査を行った。遺伝子検査結果は、参加者と試験担当医師ともに非公開とした。発症についての評価は、臨床的尺度、患者報告式の評価項目からなる質問票を用いた。運動失調や動作状態の評価は検査を実施して行った。運動失調の有りの判断はSARAスコアが3以上とした。
 最終的に分析対象者は、2008年9月13日 - 2015年10月28日の302例の登録者の中で追跡調査期間中に1回以上の来院をした252例となった。内訳は、SCA1、SCA2、SCA3、SCA6の血縁者の人数と割合は、各々83例(33%)、99例(39%)、46例(18%)、24例(10%)であった。SCA1、SCA2、SCA3、SCA6の保有者の中で運動失調に進展した者は、各々50例中26例(52%)、37例中22例(59%)、26例中11例(42%)、15例中2例(13%)であった。運動失調に進展した者は、SCA1、SCA2の非保有者では各々33例中1例(3%)、62例中1例(2%)であった。SCA6変異の非保有者は少なかったため分析できなかった。運動失調症状の進展に関連するリスクについては、SCA1では年齢(ハザード比1.13(95CI 1.03 - 1.24))、CAGリピートの長さ(1.25(1.11 - 1.41))、運動失調の信頼率(1.72(1.23 - 2.41))であった。SCA2では年齢(1.08(1.02 - 1.14))、CAGリピートの長さ(1.65(1.27 - 2.13))、SCA3では年齢(1.27(1.09 - 1.50))、信頼率(2.60(1.23 - 5.47))、複視(14.83(2.15 - 102.44))であった。遺伝子変異保有者ではSARAスコアは時間とともに上昇したが、非保有者ではスコアの変化は乏しかった。SCA1、SCA2、SCA3の遺伝子変異の保有者におけるSARAの進行は非線形であった。運動失調が発現まで緩やかで、発現後進行が増大していた。

コメント
この研究は、ヨーロッパの多施設縦断研究(RISCA)の大規模コホートを利用したSCAに関する臨床的、患者報告、およびMRIアウトカム指標の時間的変化を示した最初の研究である。SCA1、SCA2、SCA3、およびSCA6の変異保有者について、運動失調症状をまだ発現していない段階から追跡し、症状発現時期と及び進展状況を定量的に分析したものである。今後、SCAの運動失調の発症時期を遅らせる予防的な介入研究を進めることに役立つ研究である。ただし、遺伝疾患でありサンプルサイズが少なく、また研究期間が短いことなどがあり、注意して結果を解釈する必要がある。

監訳・コメント:関西大学 社会安全学研究科 公衆衛生学 高鳥毛 敏雄先生

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