難病Update

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)

2020.10.06

SARS-CoV-2に対する遺伝子組換えスパイクタンパク質ナノ粒子ワクチンの第I/II相試験

Phase 1-2 Trial of a SARS-CoV-2 Recombinant Spike Protein Nanoparticle Vaccine

Cheryl Keech1, Gary Albert, Iksung Cho, Andreana Robertson, Patricia Reed, Susan Neal, Joyce S Plested, Mingzhu Zhu, Shane Cloney-Clark, Haixia Zhou, Gale Smith, Nita Patel, Matthew B Frieman, Robert E Haupt, James Logue, Marisa McGrath, Stuart Weston, Pedro A Piedra, Chinar Desai, Kathleen Callahan, Maggie Lewis, Patricia Price-Abbott, Neil Formica, Vivek Shinde, Louis Fries, Jason D Lickliter, Paul Griffin, Bethanie Wilkinson, Gregory M Glenn

1From Novavax, Gaithersburg, MD (C.K., G.A., I.C., A.R., P.R., S.N., J.S.P., M.Z., S.C.-C., H.Z., G.S., N.P., C.D., K.C., M.L., P.P.-A., N.F., V.S., L.F., B.W., G.M.G.), and the University of Maryland School of Medicine, Baltimore (M.B.F., R.E.H., J.L., M.M.G., S.W.); Baylor College of Medicine, Houston (P.A.P.); and Nucleus Network, Melbourne, VIC (J.D.L.), and Q-Pharm, Herston, QLD (P.G.) - both in Australia.

N Engl J Med. 2020 Sep 2. doi: 10.1056/NEJMoa2026920. Online ahead of print.

 新型コロナウイルスの表面はスパイクタンパクで覆われているため、このスパイクタンパクを標的としたワクチン開発が精力的に行われている。新型コロナウイルスは重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS)とよく似た構造をしていることからウイルス名はSARS-CoV-2と呼ばれている。今回紹介する論文ではワクチン開発では先頭集団を走っているNovavax社によって開発が進められているSARS-CoV-2の改変全長スパイクタンパクをワクチン製剤に用いた第I/II相試験の結果を報告している。
 NVX-CoV2373は、SARS-CoV-2の三量体全長スパイク糖蛋白質とMatrix-M1アジュバント(サポニン系)を併せ持つ、遺伝子組換えSARS-CoV-2(rSARS-CoV-2)ナノ粒子ワクチンである。rSARS-CoV-2ワクチン(5μgおよび25μg)の安全性と免疫原性を評価するため、健康成人をアジュバント併用下でのワクチン接種(83例)、アジュバント非併用下でのワクチン接種(25例)、およびプラセボ接種(23例)に無作為に割り付け、21日の間隔を空けて2回の筋肉内接種を行った。主要評価項目は想定内の自他覚症状、安全性に関する臨床検査値、およびスパイクタンパク質に対するIgGの反応(ELISA法)、副次評価項目は、想定外の自覚症状に関する有害事象、野生型ウイルスの中和(マイクロ中和アッセイ)、およびT細胞の応答(サイトカイン染色)とした。重篤な有害事象は報告されなかった。自他覚症状は観察されても軽度であり、アジュバント併用群でより多く認められたものの短期間(平均2日以下)であった。アジュバントとワクチン5μgの接種では、スパイクに対するIgGの反応(平均値63、160 unit)および中和反応(3906)が示され、Covid-19患者の回復期血清(それぞれ8344と983)を上回った。アジュバントの追加により免疫反応が強化され、1回接種当たりの抗原量が節減でき、Th1の応答が誘導された。
 Day35時点での評価ではNVX-CoV2373は忍容性があると思われた。抗体誘導やウイルス中和効果はCovid-19回復期患者血清のレベルを超えていた。またマトリックス-M1アジュバントはTh1タイプ優位のCD4+ T細胞応答を誘導した。

コメント
 新型コロナウイルス感染症(Covid-19)は全世界的な広がりをみせるとともに、一定頻度の重症化や後遺症の問題があり、社会活動や経済活動に多くの制約が加わっている。これを打破するためにワクチンや特効薬が切望されている。
 ワクチンは世界中で開発競争が繰り広げられていて少なくとも200近いワクチン候補薬の開発が進められている。ワクチンの方法はタンパクワクチン、RNAワクチン、DNAワクチン、ウイルスベクターワクチンなど多様である。今回紹介したNovavax社のタンパクワクチン製剤は、第I/II相試験からは期待できる結果が得られているように思われる。さらなる安全性と有用性を検討するために幅広い人種、幅広い年齢層、さまざまな基礎疾患を有する人を含んだ第III相試験の結果が待たれる。

監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科 癌ワクチン療法学寄付講座 寄附講座教授 坪井 昭博先生
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