難病Update

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がんワクチン免疫療法樹状細胞

2020.10.27

ヒトCLEC9A抗体はWilms腫瘍遺伝子1(WT1)抗原をCD141陽性樹状細胞に送達し、WT1特異的なナイーブおよびメモリーCD8陽性T細胞を活性化する

Human CLEC9A antibodies deliver Wilms' tumor 1 (WT1) antigen to CD141 + dendritic cells to activate naïve and memory WT1-specific CD8 + T cells

Frances E Pearson1, Kirsteen M Tullett, Ingrid M Leal-Rojas1, Oscar L Haigh1, Kelly-Anne Masterman1, Carina Walpole1, John S Bridgeman, James E McLaren, Kristin Ladell, Kelly Miners, Sian Llewellyn-Lacey, David A Price, Antje Tunger, Marc Schmitz, John J Miles, Mireille H Lahoud, Kristen J Radford1

1Cancer Immunotherapies Laboratory Mater Research Institute - The University of Queensland Translational Research Institute Woolloongabba Australia 4102 Australia

Clin Transl Immunology. 2020 Jun 12;9(6):e1141. doi

[目的] Wilms腫瘍遺伝子1(WT1)遺伝子産物(WT1抗原)に特異的なCD8陽性T細胞を誘導するがんワクチンが有望視されているが、その免疫原性及び臨床的奏効率は、WT1抗原をCD141陽性樹状細胞に送達することによって高まる可能性がある。Cタイプレクチン様受容体CLEC9Aは、CD141陽性樹状細胞のみに発現し、CD8陽性T細胞の反応を制御する。我々は、ヒト抗CLEC9A抗体をWT1抗原に融合させた新規がんワクチンを開発し、ヒトCD141陽性樹状細胞を標的とする能力と、WT1特異的なナイーブおよびメモリーCD8陽性T細胞を活性化する能力を評価した。[方法] WT1抗原をヒトCLEC9A、DEC-205、又はβ-ガラクトシダーゼ(対照)に特異的な抗体に融合した。CD141陽性樹状細胞によるクロスプレゼンテーション後のWT1特異的なCD8陽性T細胞の活性化を、IFNγELISPOT法を用いて、その3種類それぞれについて、定量解析した。ヒト免疫細胞により再構築したヒト化マウス(それは、WT1特異的なナイーブCD8陽性T細胞を含む)を用い、WT1特異的なナイーブCD8陽性T細胞に対するプライミング能を解析した。[結果] 『CLEC9A-WT1ワクチン』は、『DEC-205-WT1ワクチン』や『対照-WT1ワクチン』よりも効率的に、WT1抗原エピトープのCD8陽性T細胞へのクロスプレゼンテーションを促進し、また、ナイーブCD8陽性T細胞のプライミングを誘導した。[結論] WT1抗原のCLEC9Aを介するCD141陽性樹状細胞への送達は、対照(つまり、特定の標的分子を定めない送達)やDEC-205を介するすべての抗原提示細胞への広範囲な送達よりも、強力にCD8陽性T細胞を刺激した。この結果は、ヒトにおいてはCD141陽性樹状細胞によるクロスプレゼンテーションが効果的なCD8陽性T細胞プライミングに十分であることを示唆する。『CLEC9A-WT1ワクチン』は、WT1を発現する悪性腫瘍に対する免疫療法の有望な候補である。

URL
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32547743

コメント
難治性の悪性腫瘍に対する免疫療法は注目を浴びている分野であり、種々の戦略が存在する。抗PD-1抗体などの抗免疫チェックポイント抗体はすでに臨床の場で広く一般的に使われており、明らかな治療効果を上げている。しかしながら、その抗免疫チェックポイント抗体は免疫系を広く活性化するため、免疫機序に基づく正常臓器に対する障害(副作用)が一定頻度で生じ、重症化する場合もある。また、最近特に話題になっているものにCAR-T(キメラ抗原受容体を発現させたT細胞)療法があり、それは難治性B細胞由来造血器腫瘍に対して優れた治療効果を示し、新たな標的抗原(つまり、新たな適応疾患)の探索などの研究が進行中である。ただ、この治療法は、患者からT細胞を取り出しそれに遺伝子操作などを加える必要があり、十分量のCAR-T細胞を得るには洗練された技術や一定の時間を必要とする。

一方、がん抗原を特異的に認識しがん細胞を攻撃するペプチドがんワクチン(がん細胞表面に提示されるがん抗原ペプチドをT細胞に認識させる:本論文の主題)などの治療法はがん細胞を特異的に攻撃するため正常臓器に対する障害を起こしにくく、また、遺伝子操作も必要としない。したがって、このような治療法を確立することは悪性腫瘍の治療の進歩に大きく貢献することとなる。本論文では、その治療効果増強のために、抗原特異的T細胞を活性化する上で重要な働きを演じていると思われるCD141陽性樹状細胞を効果的に利用する戦略についての研究成果が示されており興味深い。今回作成された『CLEC9A-WT1ワクチン』のin vivoでの腫瘍拒絶実験のポジティブな結果が示されれば、さらに興味深いものになると思われる。

監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科癌幹細胞制御学寄附講座 寄附講座教授 岡芳弘先生

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