Patricia P Ogger1, Gesa J Albers1, Richard J Hewitt1, Brendan J O'Sullivan, Joseph E Powell, Emily Calamita1, Poonam Ghai1, Simone A Walker1, Peter McErlean1, Peter Saunders, Shaun Kingston, Philip L Molyneaux1, John M Halket, Robert Gray, Daniel C Chambers, Toby M Maher1, Clare M Lloyd1, Adam J Byrne
1National Heart and Lung Institute, Imperial College London, London SW7 2AZ, UK
Sci Immunol. 2020 Oct 23;5(52):eabc1884. doi: 10.1126/sciimmunol.abc1884
特発性肺線維症(IPF)は死に至る肺の疾患であり、気道マクロファージ(AM)が深く関与している。イタコン酸はマクロファージからの炎症性サイトカインの分泌を抑制することが示されているが、線維症におけるその役割は明らかでない。本研究では、イタコン酸が肺における内因性抗線維化因子であることが示された。IPF患者は対照患者と比べて気管支肺胞洗浄液中のイタコン酸濃度が低く、IPF患者のAMではイタコン酸を合成する酵素であるcis-アコニット酸デカルボキシラーゼ(ACOD1)の発現が低下していた。ブレオマイシン誘発肺線維症マウスモデルを用いた試験では、Acod1−/−のマウスでは、野生型マウスとは異なり、線維症が長期間持続した。Acod1−/−のマウスの組織常在性AMでは、野生型のマウスのAMと比較して線維化促進性遺伝子の発現亢進がみられた。また、ACOD1を強発現している野生型マウスの単球由来AMをAcod1−/−のマウスに移入したところ、線維化が改善した。肺の線維芽細胞にイタコン酸を添加し培養した試験では、線維芽細胞の増殖能及び創傷治癒能の低下が認められた。マウスを用いたin vivo試験では、イタコン酸吸入による線維化抑制効果が明らかとなった。これらのデータは、イタコン酸が肺線維症の重症度の制御に重要な役割を果たしていること、またACOD1/イタコン酸の経路が治療戦略の標的となり得ることを示している。
URL
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/33097591
コメント
通常炎症早期にはマクロファージのACOD1発現低下に伴いイタコン酸の産生が抑制されて炎症が惹起される側に傾くが、炎症晩期にはACOD1/イタコン酸経路が亢進し、炎症が抑制される側に傾く。一方IPF患者では気道マクロファージのACOD1/イタコン酸が恒常的に発現抑制状態で炎症や線維化が持続していることを明らかにした。なぜACOD1の発現が抑制された状態のままなのか、またイタコン酸のシグナルがどのように線維化に係わる遺伝子を抑制するのかは本研究では示されていないが、これらが分かればさらに病態解明につながると考える。
また本研究は難治性疾患である肺線維症の治療法に道を開くことが期待される研究結果と思われる。
監訳・コメント:大阪大学医学部付属病院 寄付講座教授 坪井 昭博先生