難病Update

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iPS細胞ナチュラルキラー(NK)細胞癌免疫療法

2020.12.23

iPS細胞由来NK細胞は高い殺細胞能を維持し、in vivoではT細胞及び抗PD-1抗体と協調して腫瘍制御を促進する

iPSC-derived NK cells maintain high cytotoxicity and enhance in vivo tumor control in concert with T cells and anti-PD-1 therapy

Frank Cichocki1, Ryan Bjordahl, Svetlana Gaidarova, Sajid Mahmood, Ramzey Abujarour, Hongbo Wang, Katie Tuininga, Martin Felices, Zachary B Davis, Laura Bendzick, Raedun Clarke, Laurel Stokely, Paul Rogers, Moyar Ge, Megan Robinson, Betsy Rezner, David L Robbins, Tom T Lee, Dan S Kaufman, Bruce R Blazar, Bahram Valamehr, Jeffrey S Miller

1Department of Medicine, University of Minnesota, Minneapolis, MN 55455, USA.

Sci Transl Med. 2020 Nov 4;12(568):eaaz5618. doi: 10.1126/scitranslmed.aaz5618.

免疫チェックポイント抑制性受容体(PD-1など)やそのリガンド(PD-L1など)を標的とするモノクローナル抗体による免疫療法の開発により、がん治療は大きく変化した。しかしながら、持続的な腫瘍退縮効果が得られる患者は少数にすぎない。したがって、これらチェックポイント抑制性受容体を標的とする免疫療法と他の免疫療法との併用が、抗腫瘍効果を高め奏効率を改善する戦略として有望視されている。ナチュラルキラー細胞(NK細胞)は腫瘍を直接攻撃し、また、T細胞の活性化や動員を促すため、PD-L1/PD-1阻害薬などの免疫チェックポイント阻害療法の効果を高める可能性がある。しかしながら、養子免疫細胞療法のためにドナー由来のNK細胞を入手することは、その細胞数と質の確保の両面で困難を伴う。そこで、我々は人工多能性幹細胞(iPS細胞)由来の高品質のNK細胞を分化・増殖させるための強力かつ効率的な製造システムを開発した。iPS細胞由来NK細胞(iNK細胞)は、炎症性サイトカインを産生し、そして、様々な血液腫瘍や固形腫瘍に対し強力な殺細胞効果を示した。さらに、我々は、iNK細胞はT細胞を動員しそのT細胞及び抗PD-1抗体と協調して炎症性サイトカインの産生及び腫瘍に対する殺細胞効果を増強することを示した。このiNK細胞の作成過程においては、再生可能な材料が用いられ、そして、単回の作成過程により何度も投与できるほど多量のiNK細胞が製造可能となるため、iNK細胞は、癌免疫療法のための『off-the-shelf(在庫があっていつでも使用できる)』の細胞製剤となり得る。そして、iNK細胞は腫瘍に到達し獲得免疫系を作動させ、活性化T細胞の腫瘍への流入を促進することにより『cold tumor(免疫細胞の浸潤が乏しい腫瘍)』を『hot tumor(免疫細胞が多く浸潤している腫瘍)』に変えて免疫チェックポイント阻害剤の効果を増強すると考えられる。

URL
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/33148626

コメント
免疫に抑制的に働く分子(PD-1など)をブロックする抗体、つまり、免疫チェックポイント阻害剤は、がんに対する免疫療法としての地位を確立し、広く一般臨床において使用されている。その免疫チェックポイント阻害剤を生体に投与した時に活性化され腫瘍細胞を攻撃するのは主にはCD8Tリンパ球であり、ペプチドがんワクチンや樹状細胞ワクチンにおいても、CD8Tリンパ球が主たる役割を演じる。また、CD4Tリンパ球も重要な働きを担うと考えられる。しかしながら、これらTリンパ球の活性化を主体とした免疫療法については、一般臨床で認可されている上記の免疫チェックポイント阻害剤でさえその効果は未だ十分とは言えず、難治性悪性腫瘍に対する免疫療法の効果増強の種々の試みがなされている。その一つの戦略が、T細胞とは別の免疫細胞であるナチュラルキラー細胞(NK細胞)の利用である。

NK細胞を患者に輸注する時の大きな問題点のひとつは、十分量のNK細胞を確保することが難しいことである。これを克服するために、本論文においては、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells:iPS細胞)からNK細胞を作り(iNK細胞)、iPS細胞の性質を利用して細胞数を増幅し(1 x 10から1 x 10倍)、大量のiNK細胞を得ることに成功している。本成果により、iNK細胞が癌免疫療法のための『凍結保存されたoff-the-shelf(在庫があっていつでも使用できる)のNK細胞製剤』となることが期待される。

本論文で紹介された方法により作成されたiNK細胞は腫瘍細胞に対する直接的な殺細胞効果を有していた。さらに、このiNK細胞はT細胞を腫瘍局所に動員する能力を持ちT細胞や免疫チェックポイント阻害剤と協調して腫瘍細胞を攻撃できる可能性、つまり、実臨床における免疫チェックポイント阻害剤とiNK細胞という2種類の癌免疫療法の併用による効果増強の可能性が実験的に示されており、興味深い。

監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科 癌幹細胞制御学寄附講座 寄附講座教授 岡 芳弘先生

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