難病Update

Jennifer C E Lane*, Richard S Craig*, Jonathan L Rees*, Matthew D Gardiner, Jane Green, Daniel Prieto-Alhambra*, Dominic Furniss*

 

*Oxford National Institute for Health Research Musculoskeletal Biomedical Research Unit, Nuffield Department of Orthopaedics, Rheumatology, and Musculoskeletal Sciences, Nuffield Orthopaedic Centre, University of Oxford, Oxford, UK.

 

Lancet Rheumatol 2020 Sep 30;3(1):e49-e57. doi: 10.1016/S2665-9913(20)30238-1. eCollection 2021 Jan.

 

手根管症候群治療の手根管除圧術は一般的な術式の1つとされている。しかし、その安全性と有効性の評価が乏しい。そこで、英国の死亡者を含む入院患者記録データ（Hospital Episode Statistics）の中から、1998年4月1日から2017年3月31日の18歳以上のすべての手根管除圧術を受けた患者の予後を追跡評価した。追跡は死亡日または本研究の終了日（2017年3月31日）とした。主要評価項目は、手根管除圧術の再手術と重篤な術後合併症の術後30日及び90日以内の発生率とした。評価は、Cox回帰による多変量解析で行った。また、FineとGrayの方法を用いて死亡率については諸要因を調整した。本研究はClinicalTrials.govに登録されている（NCT03573765）。

 

観察期間に855,832件の手根管除圧術が行われた。1,000人年当たり1.10（95％CI:1.02 - 1.17）であった。その中の3.42％にあたる29,288件が再手術に至っていた。1,000人年あたりの発生率は3.18（3.12 - 3.23）であった。初回手術855,832件中、術後30日以内に620件（0.070％［CI:0.067 - 0.078］）、術後90日以内に698件（0.082％［CI: 0.076 - 0.088］）が重篤な合併症を発生させていた。術後90日以内の局所合併症の補正ハザード比は、男性は2.32（1.74-3.09）、年齢区分18 - 29歳の者は2.25（1.10 - 4.62）であった。再手術のリスク比は、男性は1.09（1.06 - 1.13）、高齢者（50 - 59歳に対する80歳以上）は1.09（1.03 - 1.15）、高レベル合併症保有者（Charlsonスコア≧5）は1.25（1.19 - 1.32）、社会経済的貧困者（貧困度上位10％に対する下位10％）では1.18（1.10 - 1.27）であった。

 

URL

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33381769

 

コメント

手根管症候群とは手のひらの付け根部分にある手根管の中で正中神経が圧迫されて手指が麻痺する病態である。原因不明のものが多く、手が使えないと生活上の支障が大きい。妊娠・出産期や更年期の女性に多いと報告されているが、骨折、脱臼、使いすぎ、透析、変形性関節症、痛風、アミロイド沈着、慢性関節リウマチ、炎症、腫瘍や腫瘤でも起こるとされている。治療法として手根管除圧術があるがその手術の安全性や治療成績が不十分であった。本研究は、地域全体の症例を対象とした大規模な全国調査によるものである。本研究は、手根管除圧術は重篤な合併症の発生率が0.1％未満であり、安全で有効な治療法であると報告したものである。

 

監訳・コメント：関西大学 社会安全学研究科 公衆衛生学 高鳥毛 敏雄先生