難病Update

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PD1ホジキンリンパ腫腫瘍微小環境

2021.02.26

抗PD1抗体で古典的ホジキンリンパ腫患者を治療すると腫瘍縮小や腫瘍微小環境の変化が誘導されるが細胞傷害性T細胞の活性化はみられない

Tumor and microenvironment response but no cytotoxic T-cell activation in classic Hodgkin lymphoma treated with anti-PD1

Sarah Reinke*, Paul J Bröckelmann, Ingram Iaccarino*, Maria Garcia-Marquez, Sven Borchmann, Franziska Jochims*, Michaela Kotrova, Karol Pal, Monika Brüggemann, Elena Hartmann, Stephanie Sasse, Carsten Kobe, Stephan Mathas, Martin Soekler, Ulrich Keller, Matthias Bormann, Andreas Zimmermann, Julia Richter*, Michael Fuchs, Bastian von Tresckow, Peter Borchmann, Hans SchlBer, Michael von Bergwelt-Baildon, Andreas Rosenwald, Andreas Engert, Wolfram Klapper

*Hematopathology Section and Lymph Node Registry, Department of Pathology, University Hospital Schleswig-Holstein, Campus Kiel, Kiel, Germany

Blood. 2020 Dec 17;136(25):2851-2863. doi: 10.1182/blood.2020008553.

古典的ホジキンリンパ腫(classic Hodgkin lymphoma:cHL)は、プログラム細胞死タンパク1(programmed cell death protein 1:PD1)を標的とする抗体治療に対する感受性が最も高いがん腫であり、少数のHodgkin細胞/Reed-Sternberg細胞(HRSC)を特徴とする独特な腫瘍微小環境(tumor microenvironment:TME)を有する。固形腫瘍での抗PD1抗体の効果は、主としてCD8陽性細胞傷害性T細胞を介したものであると考えられるが、HRSCには主要組織適合遺伝子複合体(MHC)の発現が欠如していることが多く、cHLにおいて抗PD1治療が奏効する機序は明らかでない。予後不良群の早期cHL患者に対して抗PD1抗体ニボルマブによるファーストライン治療を行ったドイツホジキンリンパ腫研究グループ(German Hodgkin Study Group)の第2相NIVAHL試験では、速やかな臨床的効果と中間解析での高い完全奏効率が報告された。この速やかな治療効果の機序を明らかにするため、ファーストライン治療としてのニボルマブの投与前および治療開始後の数日間にそのNIVAHL試験の患者から採取された生検検体と血液検体を解析した。

その結果、速やかな臨床効果の発現を反映して、HRSCはニボルマブの初回投与後数日以内に組織から消失していた。また、TMEに関しては、この治療早期の時点で1型制御性T細胞およびPD-L1陽性の腫瘍関連マクロファージの減少が認められた。興味深いことに、腫瘍および末梢血において細胞傷害性の免疫応答やT細胞のクローン性増殖は観察されなかった。TMEにおけるこれらの早期の変化は、抗PD1抗体治療中の再発時のcHL患者の生検検体に認められた変化とは異なっていた。我々は、cHLに対して抗PD1抗体治療を行った時にごく早期に観察される独特な組織学的応答パターンを同定した。それは、cHLに対してのニボルマブ治療の主な作用機序は、腫瘍に対する獲得免疫応答の誘導ではなく、生存促進因子の阻害であることを示唆するものであった。

URL
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/33113552

コメント
細胞障害性T細胞は、癌に対する免疫応答および癌免疫療法において重要な役割を演じる。免疫チェックポイントインヒビターである抗PD1抗体は、その細胞障害性T細胞表面に存在するPD1を介した免疫抑制シグナル伝達をブロックする。したがって、抗PD1抗体を癌患者に投与すると、『癌組織内に浸潤・存在しているが十分な活性化状態になく、したがって、癌細胞を攻撃できない細胞障害性Tリンパ球』は活性化され癌細胞を攻撃できるようになる。

一方、古典的ホジキンリンパ腫(cHL)を抗PD1抗体でファーストライン治療として治療すると、早期に臨床効果が誘導されることが報告された。そのような症例の癌免疫動態を解析したのが本論文である。cHLの治療においては、他の固形癌を抗PD1抗体で治療した時にメインの役割を演じると考えられる前述の細胞障害性Tリンパ球の活性化やクローン性増殖はみられず、別のメカニズムにより腫瘍が退縮することが示唆された。細胞障害性Tリンパ球の活性化以外の免疫チェックポイントインヒビターによる抗腫瘍作用について論じられており、たいへん興味深い。癌組織における抗腫瘍免疫応答の解明のために、また、癌免疫療法の進歩のために、さらに深いメカニズム解析が望まれる。

監訳・コメント:大阪大学大学院 医学系研究科 癌幹細胞制御学寄附講座 寄附講座教授 岡 芳弘先生

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