2021.03.25
サイトカインのチェックポイントを標的とすることによって臍帯血由来のCAR-NK細胞の適応能が強化される
Targeting a cytokine checkpoint enhances the fitness of armored cord blood CAR-NK cells
May Daher*, Rafet Basar*, Elif Gokdemir*, Natalia Baran, Nadima Uprety*, Ana Karen Nunez Cortes*, Mayela Mendt*, Lucila Nassif Kerbauy*, Pinaki P Banerjee*, Mayra Shanley*, Nobuhiko Imahashi*, Li Li*, Francesca Lorraine Wei Inng Lim*, Mohsen Fathi, Ali Rezvan, Vakul Mohanty, Yifei Shen, Hila Shaim*, Junjun Lu*, Gonca Ozcan*, Emily Ensley*, Mecit Kaplan*, Vandana Nandivada*, Mustafa Bdiwi*, Sunil Acharya*, Yuanxin Xi, Xinhai Wan*, Duncan Mak, Enli Liu*, Xin Ru Jiang*, Sonny Ang*, Luis Muniz-Feliciano*, Ye Li*, Jing Wang, Shahram Kordasti, Nedyalko Petrov, Navin Varadarajan, David Marin*, Lorenzo Brunetti, Richard J Skinner, Shangrong Lyu, Leiser Silva, Rolf Turk, Mollie S Schubert, Garrett R Rettig, Matthew S McNeill, Gavin Kurgan, Mark A Behlke, Heng Li, Natalie W Fowlkes, Ken Chen, Marina Konopleva, Richard E Champlin*, Elizabeth J Shpall*, Katayoun Rezvani*
*Department of Stem Cell Transplantation and Cellular Therapy and.
Blood. 2021 Feb 4;137(5):624-636. doi: 10.1182/blood.2020007748.
免疫チェックポイント抗体療法は、ある種のがんの転帰を著しく改善している。チェックポイントを標的とした治療の臨床への影響を拡大するため、インターロイキン15[IL-15]のシグナル伝達を負に制御するのに重要な因子であるサイトカイン誘導性Srcホモロジー2を有する蛋白質(CIS)をノックダウンする技術と、臍帯血由来ナチュラルキラー(NK)細胞における第四世代キメラ抗体受容体(CAR)の技術を組み合わせたストラテジーを開発した。これらのストラテジーを組み合わせることで、Akt/mTORC1およびc-MYCのシグナル伝達経路が強化されてNK細胞のエフェクター機能が増強し、その結果好気性解糖が亢進した。リンパ腫のマウスモデルを用いた試験では、この複合的アプローチにより、いずれか一方を用いたときよりNK細胞の抗腫瘍活性が改善され、有意な毒性なしにリンパ腫の移植片が消失した。サイトカインのチェックポイントを標的とすることによって、IL-15を分泌するCAR-NK細胞の代謝適応能が促進され、抗腫瘍効果が増強するとの結論が得られた。これらの複合的アプローチは、第四世代NK細胞を用いたがん免疫療法の開発における有望なマイルストーンとなろう。
備考:Armoredに対する適当な日本語が見当たらないので省略しました。
URL
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32902645
コメント
CD19特異的キメラ抗体受容体(CAR)を用いた遺伝子改変T細胞療法(CAR-T療法)はB細胞性腫瘍に対して極めて高い寛解率をもたらすことで注目される一方、再発率の高さも問題となっている。その原因の一つとして、輸注したCAT-T細胞が短寿命であることが考えられている。そこで筆者らは以前第四世代CAT-NKとしてCARに加えてIL-15を産生するベクターを導入した細胞療法の開発を行った。IL-15を導入していないCAR-NKに比べ第四世代CAR-NK細胞をマウスに輸注した場合では第四世代CAR-NK細胞の長寿命化や増殖が確認され、腫瘍を移入したマウスでは生存を伸ばすことができたが、治癒には至らなかった。
IL-15やIL-2といったサイトカインは、T細胞の増殖や長寿命に向かわせる活性化シグナルとともに過剰反応を抑制する機構としてのシグナルの下流となるJAK-STATを抑制するSuppressor-of-cytokine signaling (SOCS)ファミリーを誘導することやSOCSファミリーの一つであるサイトカイン誘導性Srcホモロジー2を有する蛋白質(CIS)がNK細胞でチェックポイントとして重要な役割を果たしていることが分かっていた。そこで今回筆者らはCRISPR-Cas9によりCISをノックダウンする事と、第四世代CARを導入するという二重修飾をNKに加えた。その結果マウス腫瘍モデルで高率に治癒を認めている。今後の発展が期待される治療法と考えられる。
監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科 癌ワクチン療法学寄付講座 寄附講座教授 坪井 昭博先生