難病Update

難病Update

フロテツズマブ二重特異性抗体急性骨髄性白血病

2021.04.27

難治性急性骨髄性白血病に対する救済免疫療法としてのフロテツズマブ

Flotetuzumab as salvage immunotherapy for refractory acute myeloid leukemia

Geoffrey L Uy*, Ibrahim Aldoss, Matthew C Foster, Peter H Sayre, Matthew J Wieduwilt, Anjali S Advani, John E Godwin, Martha L Arellano, Kendra L Sweet, Ashkan Emadi, Farhad Ravandi, Harry P Erba, Michael Byrne, Laura Michaelis, Max S Topp, Norbert Vey, Fabio Ciceri, Matteo Giovanni Carrabba, Stefania Paolini, Gerwin A Huls, Mojca Jongen-Lavrencic, Martin Wermke, Patrice Chevallier, Emmanuel Gyan, Christian Récher, Patrick J Stiff, Kristen M Pettit, Bob Löwenberg, Sarah E Church, Erica Anderson, Jayakumar Vadakekolathu, Marianne Santaguida, Michael P Rettig*, John Muth, Teia Curtis, Erin Fehr, Kuo Guo, Jian Zhao, Ouiam Bakkacha, Kenneth Jacobs, Kathy Tran, Patrick Kaminker, Maya Kostova, Ezio Bonvini, Roland B Walter, Jan K Davidson-Moncada, Sergio Rutella, John F DiPersio*

*Department of Medicine, School of Medicine, Washington University in St. Louis, St. Louis, MO.

Blood. 2021 Feb 11;137(6):751-762. doi: 10.1182/blood.2020007732.

急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia, AML)患者の約半数は、寛解導入療法に反応しないか(寛解導入不応:primary induction failure, PIF)、寛解導入後6ヵ月未満で再発する(早期再発:early relapse, ER)。我々は、最近、『患者が免疫細胞浸潤型の腫瘍微小環境(tumor microenvironment, TME)を有すること』と『シタラビンをベースにした化学療法には抵抗性を示すが、CD3ε/CD123に対する二重特異性DART抗体をベースにしたフロテツズマブには反応性を示すこと』の間には相関があることを示した。本論文で結果を示す再発/難治性成人AMLを対象としたフロテツズマブの多施設共同オープンラベル第I/II相試験では、用量設定パートに42例、第II相試験推奨用量(recommended phase 2 dose, RP2D)500 ng/kg/日を投与するパートに46例の、計88例の被験者が組み入れられた。最も発現頻度が高かった有害事象は薬剤の注入に伴う反応(infusion-related reactions, IRRs)とサイトカイン放出症候群(cytokine release syndrome, CRS)であり、その多くはグレード1または2であった。また、1週目のフロテツズマブの段階的増量、デキサメタゾンの前投与、トシリズマブの即時使用、およびフロテツズマブの一時的な減量/中断によって、重度のIRRおよびCRSを予防することができた。免疫細胞浸潤型のTMEを有する患者には臨床的有用性が認められた。RP2Dの投与を受けた患者30例における完全寛解(complete remission, CR)/血液学的回復が部分的であった完全寛解(CRh)の率は26.7%で、全奏効率(CR/CRh/血液学的回復が不十分であったCR)は30.0%であった。CR/CRhを達成したPIF/ER患者における全生存期間の中央値は10.2ヵ月(範囲:1.87 - 27.27)で、6ヵ月後および12ヵ月後の生存率はそれぞれ75%(95%信頼区間[CI]0.450 - 1.05)と50%(95%CI 0.154 - 0.846)であった。骨髄のトランスクリプトーム解析によると、フロテツズマブによるCRは、わずか10の遺伝子の発現様式(10-gene signature)から予測可能であった(10-gene signatureとEuropean LeukemiaNet分類を合わせるとAUROC=0.904で、後者のみではAUROC=0.672)。フロテツズマブは、PIF/ER患者において許容範囲の安全性と有望な薬理活性を持つ革新的治験薬である。

URL
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32929488

コメント
悪性腫瘍に対する免疫療法の大きな役割には、たとえば以下の二つがあると考える。その一つは、手術療法・化学療法・放射線療法など他の先行治療により腫瘍量が著明に減少し寛解と呼べる状態になってはいるが再発のリスクが高いものに対して再発予防のために比較的長期間免疫療法を継続し、結果として腫瘍細胞の根絶を図ることである。もうひとつは、免疫療法の当該治療薬単独で、あるいは、他治療と併用で、腫瘍量の多い時期に治療を行い腫瘍量の減少を図ることである。もちろん、著効すれば、そのまま完全寛解や腫瘍細胞根絶に結び付くこともあり得る。化学療法などの先行治療に対する反応が乏しく腫瘍量の減少が望めず、化学療法とは別の作用メカニズムで作動する免疫療法薬を試す時はこの後者の範疇にはいり、本論文で紹介されている新規薬剤候補フロテツズマブ(flotetuzumab)の投与もこれに相当する。

化学療法や造血幹細胞移植療法などの発達により、急性骨髄性白血病(AML)も一定の治癒率が望める時代となった。しかしながら、治癒を目指すための第1段階である寛解導入療法に不応性(化学療法に抵抗性)の症例も多々存在する。このような症例に対して、本論文で紹介されているフロテツズマブは有望な薬剤候補と思われる。前述した『悪性腫瘍に対する免疫療法の役割』のあと(二番目)で述べた方、つまり、『腫瘍量の多い時期に治療を行い腫瘍量の減少を図る』場面においては、患者の生命の危険が迫っているため、ある程度の副作用は許容されるのが一般的であると考える。本論文でも軽くはない免疫反応関連副作用が生じる可能性が述べられているが、対処可能な許容範囲のものであると思われる。

また、AML細胞の主たる増殖の場である骨髄(つまりTME)での免疫関連遺伝子の発現様式と本免疫療法に対する反応性の関連が述べられており、それは、実臨床上での本薬剤の効果予測の観点からだけでなく、免疫治療薬の作動メカニズムを考える点でも重要な所見である。

論文中には、フロテツズマブによる治療で状態が改善しその後にさらに造血幹細胞移植で治療されそのまま生存中の難治性AML症例の存在も示されており、さらなる研究の発展が望まれる。

監訳・コメント:大阪大学大学院 医学系研究科 癌幹細胞制御学寄附講座 寄附講座教授 岡 芳弘先生

一覧へ