2021.05.26
新型コロナウイルス感染症(covid-19)の入院患者の退院後の予後:後向きコホート研究
Post-covid syndrome in individuals admitted to hospital with covid-19: retrospective cohort study
Daniel Ayoubkhani*, Kamlesh Khunti, Vahé Nafilyan*, Thomas Maddox*, Ben Humberstone*, Ian Diamond*, Amitava Banerjee
*Office for National Statistics, Government Buildings, Newport, UK.
BMJ. 2021 Mar 31;372:n693. doi: 10.1136/bmj.n693.
新型コロナウイルス感染症(covid-19)患者の退院後の再入院率や疾病の状況について、一般人口集団を対照に定量的に評価した。患者群は、英国でcovid-19により入院し、2020年8月31日までに退院した生存患者47,780例(平均年齢65歳、男性55%)である。対照群は英国の約5,000万人の一般人口である。彼らの10年間の電子記録データをもとに個人の属性と臨床的特徴を正確にマッチさせて対象群とした。評価項目は、2020年9月30日までの再入院率(対照群はあらゆる入院率)、全死因死亡率、呼吸器・循環器・代謝・腎・肝疾患の有病状況である。これを年齢、性別、人種別に調整して発生率・比を計算した。追跡期間は、平均140日間である。covid-19で入院して退院した患者のほぼ3分の1(47,780例中14,060例)が再入院していた。10例に1例以上(5,875例)が退院後に死亡していた。対照群のそれぞれ4倍、8倍の高率であった。呼吸器疾患(P<0.001)、糖尿病(P<0.001)および循環器疾患(P<0.001)の有病率は、covid-19患者群に有意に高かった。1,000人年あたりの診断者はそれぞれ770(95%CI:758 - 783)、127(122 - 132)、126(121 - 131)であった。70歳以上の患者よりも70歳未満の患者のほうが高く、白人よりも少数人種の患者で高かった。最も大きな差が認められたのが呼吸器疾患で、年齢階層では70歳未満の患者10.5(95%CI:9.7 - 11.4)に対し70歳以上4.6(4.3 - 4.8)であった。人種別では非白人11.4(9.8 - 13.3)に対し白人5.2(5.0 - 5.5)であった。
つまり、covid-19により入院した患者は、退院後、一般人口集団と比べて複数の臓器の機能障害の発生率が高かった。リスクの上昇は高齢者に限定されず人種間で異なっていた。covid-19の患者の診断、治療および予防にあたって、臓器・疾患別に対応するのではなく、総合的な診療体制で対応することが必要である。疾患の長期的な予後調査を行うことを至急に進める必要がある。
URL
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33789877
コメント
英国では、外来診療は一般医(GP)が担い、入院治療は全国的に整備されている病院(NHS病院)が担っている。病院はほぼ全て国が管理している。そこで提供される医療は標準化され、診療データはすべて電子化され、臨床研究に使われている。そのデータを使ってエビデンスに基づく診療が行われている。本研究は、その英国のcovid-19で入院したすべての患者のデータを使った研究である。日本ではこのような研究を行うことが難しい。本研究によると、covid-19の患者には多臓器の機能障害(特に呼吸器および心臓代謝)の発生率が高く、患者の診療やフォローアップにあたっては、臓器または疾患別に対応するのではなく、総合的な診療体制で行うべきとしている。日本では全国の入院患者の退院後に全員の予後調査をすることは難しい。保健所に登録されているもので行えるかも知れないが、その患者に対し総合的に診療するのは難しい。本論文はその対応を行うことを検討する必要があると指摘している。
監訳・コメント:関西大学 社会安全学研究科 公衆衛生学 高鳥毛 敏雄先生