難病Update

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リンパ芽球性白血病化学療法同種造血幹細胞移植

2021.06.23

高リスクのフィラデルフィア染色体陰性成人リンパ芽球性白血病における化学療法と同種移植の比較

Chemotherapy or allogeneic transplantation in high-risk Philadelphia chromosome-negative adult lymphoblastic leukemia

Josep-Maria Ribera*, Mireia Morgades*, Juana Ciudad, Pau Montesinos, Jordi Esteve, Eulàlia Genescà*, Pere Barba, Jordi Ribera*, Irene García-Cadenas, María José Moreno, Daniel Martínez-Carballeira, Anna Torrent*, Pilar Martínez-Sánchez, Silvia Monsalvo, Cristina Gil, Mar Tormo, María Teresa Artola, Marta Cervera, José González-Campos, Carlos Rodríguez, Arancha Bermúdez, Andrés Novo, Beatriz Soria, Rosa Coll, María-Luz Amigo, Aurelio López-Martínez, Rosa Fernàndez-Martín, Josefina Serrano, Santiago Mercadal, Antònia Cladera, Alberto Giménez-Conca, María-Jesús Peñarrubia, Eugènia Abella, Ferran Vall-Llovera, Jesús-María Hernández-Rivas, Antoni Garcia-Guiñon, Juan-Miguel Bergua, Beatriz de Rueda, María-José Sánchez-Sánchez, Alfons Serrano, María Calbacho, Natalia Alonso, Jose-Ángel Méndez-Sánchez, Raimundo García-Boyero, Matxalen Olivares, Susana Barrena, Lurdes Zamora*, Isabel Granada*, Ludovic Lhermitte, Evarist Feliu*, Alberto Orfao

*Institut Català d'Oncologia-Hospital Germans Trias i Pujol, Josep Carreras Research Institute, Badalona, Universitat Autònoma de Barcelona, Barcelona, Spain.

Blood. 2021 Apr 8;137(14):1879-1894. doi: 10.1182/blood.2020007311.


評価可能残存病変(measurable residual disease: MRD)が十分に消失している高リスク(high-risk: HR)のフィラデルフィア染色体陰性(Ph)成人急性リンパ芽球性白血病(ALL)については、同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)の必要性が明らかにされていない。このALL-HR-11試験では、寛解導入療法終了時および地固め療法終了時のMRDレベルに基づき化学療法群とallo-HSCT群に割り付けられた高リスクPh成人ALL患者の転帰を評価した。患者は15 - 60歳で、完全奏効(complete response: CR)を達成した、そしてまた導入療法後のMRD(8色フローサイトメトリーで、中央で評価)が0.1%未満かつ早期地固め療法後のMRDが0.01%未満の患者は、後期地固め療法およびその後の最長2年間の維持療法を受ける群に割り付けられた(化学療法群)。残りの患者はallo-HSCT群に割り付けられた(allo-HSCT群)。

CRを達成した患者は348例中315例(91%)で、導入療法後のMRDが0.1%未満であった患者は289例中220例(76%)であった。ITT(intention-to-treat)解析の方法により、218例が化学療法群に、106例がallo-HSCT群に割り付けられた。患者全体の5年後の累積再発率(CIR)、全生存率(OS)、および無病生存率(それぞれ、±95%信頼区間)は、それぞれ、43%±7%、49%±7%、および40%±6%であった。そのうち、化学療法群におけるCIRとOSは、それぞれ、45%±8%と59%±9%で、また、allo-HSCT群では、それらは、それぞれ、40%±12%と38%±11%であった。これらの結果は、寛解導入療法および地固め療法後にMRDの十分な反応が認められた60歳までの高リスクPh成人ALLの患者は、allo-HSCTを回避しても転帰に悪影響はないことを示している。一方、化学療法によるMRDの消失が不十分な患者には、寛解到達後のより良い代替治療が必要である。

URL
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/33150388

コメント
骨髄移植などの造血幹細胞移植は、本論文の対象疾患である急性リンパ芽球性白血病を含む急性白血病に対する強力な治療法である。移植時に行われる化学療法や放射線療法により白血病細胞はkillされるが、その後に移入されるドナー造血細胞由来の免疫細胞も残存白血病細胞の根絶に大きく寄与する。つまり、ドナー由来の免疫細胞は、残存している白血病細胞を非自己と認識し攻撃する(graft versus leukemia effect : GVL効果)。したがって、造血幹細胞移植は、強力な癌免疫療法と言える。しかしながら、患者の正常な細胞もドナー由来の免疫細胞から非自己と認識され障害を受け得る(graft versus host disease : GVHD)。つまり、患者の元の病気である白血病の再発がないのにもかかわらず、このGVHDなど移植に伴った反応により患者が死亡したり長期にQOLが大きく低下するリスクがある。

急性白血病に対しての造血幹細胞移植の最も一般的な適応は、「急性白血病が完全寛解に到達した後に、再発高リスク症例の再発を防ぐために造血幹細胞移植を行う」というものであると思われる。しかしながら、前段落で記載したように、造血幹細胞移植は強力な治療法ではあるが移植術に関連した再発以外での死亡リスクが一定の割合あり、したがって、『完全寛解到達後に化学療法を続行し造血幹細胞移植なしで治癒を目指すべき症例』と『造血幹細胞移植を行うべき症例』を層別化することは非常に重要なポイントである。本論文においては、ある一定の条件を満たす患者は化学療法の続行により造血幹細胞移植を施行せずとも一定の治癒率が期待できることが示されており、意義深い。

監訳・コメント:大阪大学大学院 医学系研究科 癌幹細胞制御学寄附講座 寄附講座教授 岡 芳弘先生

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