難病Update

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FDGPreclinical期アルツハイマー病アルツハイマー病バイオマーカー疾患修飾薬

2021.07.27

Preclinical期アルツハイマー病の認知機能低下を予測するPETとMRIのバイオマーカーの比較

Comparing PET and MRI Biomarkers Predicting Cognitive Decline in Preclinical Alzheimer Disease

Danielle V Mayblyum*, J Alex Becker*, Heidi I L Jacobs*, Rachel F Buckley, Aaron P Schultz, Jorge Sepulcre*, Justin S Sanchez*, Zoe B Rubinstein*, Samantha R Katz*, Kirsten A Moody*, Patrizia Vannini, Kathryn V Papp, Dorene M Rentz, Julie C Price*, Reisa A Sperling, Keith A Johnson*, Bernard J Hanseeuw*

*Department of Radiology, Massachusetts General Hospital, Gordon Center for Medical Imaging and the Athinoula A. Martinos Center for Biomedical Imaging, Boston, MA 02114, USA.

Neurology. 2021 May 5; 96(24):e2933-e2943. doi: 10.1212/WNL.0000000000012108. Online ahead of print.

構造的MRI、フルオロデオキシグルコース(fluorodeoxyglucose:FDG)PET、フロルタウシピル(flortaucipir:FTP)PETの信号を用いて認知機能低下を予測する方法を高アミロイドの参加者と低アミロイドの参加者で比較し、予防試験の統計的検出力が最も高くなるバイオマーカーの組合せを明らかにすることを目的とする。前向きコホート研究で、認知機能が臨床的に正常でHarvard Aging Brain Studyに参加し、MRI、FDG-PET、FTP-PET、ピッツバーグ化合物B(Pittsburgh compound B:PiB)PETの検査を1年以内に受けており、追跡調査で前向きな認知機能評価を平均3年間受けた成人のデータを解析した。Preclinical Alzheimer's Cognitive Compositeを用いて認知機能を評価した。バイオマーカーと認知機能低下との関連を線形混合効果モデルを用いて評価し、予防試験を模した検出力曲線を生成した。

本研究では131例(女性52例、73.98±8.29歳)のデータを解析した。別々のモデルでは、ほとんどのバイオマーカーが、PiB高値の参加者においてPiB低値の参加者と比較して認知機能低下との関連性が高かった。嗅内皮質FDGがその後の認知機能低下の独立した予測因子であることが示され、組入れ基準にPiB高値と嗅内皮質FDG低値の両方を用いると、PiB高値のみの場合と比較して、仮想試験に必要な参加者数が3分の1に減少した。

URL
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/33952655

コメント
疾患修飾薬とは、疾患の発症メカニズムに作用し、疾患の進行過程を遅延させる治療薬であり、アルツハイマー病(AD)に対する抗アミロイドβ薬などがその代表例である。しかし、薬の開発には、認知症の症状はまだ無いが病理変化が始まっている「Preclinical期」にあたる方々の協力が必須となる。MCI期ADと正常との中間状態とも考えられ、今後開発されるADの疾患修飾療法の最適な対象となるものと期待されている。これまでにも、この段階の方々を正確に評価するための様々なバイオマーカーが検討されて来たが、一定の結論は出ていない。統計的検出力が最も高くなるバイオマーカーの組合せを検討した今回の報告で、Preclinical期アルツハイマー病において、嗅内皮質の代謝低下はその後の認知機能低下の強力かつ独立した予測因子であり、FDGが臨床試験の検出力を高める有用なバイオマーカーとなる可能性が指摘され、今後の治験参加者の判定への道程の一歩前進である。ただ、「Preclinical期」の方々にいかにしてこれらの検査を受けてもらうことができるかその方法の模索、及び参加者で、今回の評価方法陽性の方は、将来ADへの移行を疑われた参加者であり、心の負担は計り知れないと考えられる。今後は、心のケアの問題も取り上げる必要があると考えられる。

監訳・コメント:国立病院機構 大阪南医療センター 神経内科 狭間 敬憲先生

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