2021.07.27
乳癌患者における抗PD-1抗体治療中の腫瘍内変化の単一細胞マップ
A single-cell map of intratumoral changes during anti-PD1 treatment of patients with breast cancer
Ayse Bassez*, Hanne Vos, Laurien Van Dyck*, Giuseppe Floris, Ingrid Arijs*, Christine Desmedt, Bram Boeckx*, Marlies Vanden Bempt, Ines Nevelsteen, Kathleen Lambein, Kevin Punie, Patrick Neven, Abhishek D Garg, Hans Wildiers, Junbin Qian, Ann Smeets, Diether Lambrechts
*Laboratory for Translational Genetics, Department of Human Genetics, KU Leuven, Leuven, Belgium.
Nat Med. 2021 May;27(5):820-832. doi: 10.1038/s41591-021-01323-8. Epub 2021 May 6.
免疫チェックポイント阻害薬(ICB)と術前化学療法の併用により乳癌の病理学的完全奏効率が改善しているが、ICBの抗腫瘍効果が認められる患者は一部に限定されている。その理由を明らかにするため、ホルモン受容体陽性の乳癌患者及びトリプルネガティブの乳癌患者に対し術前に抗PD-1抗体を投与した。治療歴がなく術前に抗PD-1抗体のみの投与を受けた患者(29例)および、術前化学療法後に抗PD-1抗体の投与を受けた患者(11例)から治療前と治療中の腫瘍から生検検体を採取し、単一細胞トランスクリプトーム、T細胞受容体及びプロテオームのプロファイルを評価した。3分の1の腫瘍でPD-1陽性T細胞が検出され、抗PD-1抗体治療によりPD-1陽性T細胞のT細胞のクローン増殖が認められた。主に増殖が認められたのはCD8陽性T細胞であり、細胞傷害活性のマーカー(PRF1、GZMB)、免疫細胞ホーミングのマーカー(CXCL13)、及び細胞疲弊のマーカー(HAVCR2、LAG3)の発現が顕著であった。CD4陽性T細胞では、Th1細胞のマーカー(IFN-γ)及び濾胞性ヘルパー細胞のマーカー(BCL6、CXCR5)の発現がみられた。治療前の生検検体では、PD-L1陽性の免疫調節性樹状細胞、マクロファージの特異的表現型(CCR2+又はMMP9+)、および主要組織適合遺伝子複合体クラスI/IIを発現した癌細胞の相対的頻度に、T細胞増殖との正の相関がみられた。逆に、未分化のエフェクター/メモリーT細胞の前駆体のTCF7+やGZMK+、抑制性マクロファージのCX3CR1+やC3+には、T細胞増殖との負の相関がみられた。以上のように、様々な免疫表現型及び関連遺伝子に、抗PD-1抗体治療後のT細胞増殖との正又は負の相関が認められ、乳癌における抗PD-1抗体の治療効果の不均一性が浮き彫りとなった。
URL
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/33958794
コメント
腫瘍に対する抗PD1抗体の効果発現の予後予測因子として腫瘍細胞のPD-L1の発現やTIL scoreが提唱されているが、予測因子としての精度は不十分である。
本論文ではトリプルネガティブ乳癌を対象にneoadjuvantとして抗PD1抗体または化学療法+抗PD1抗体を用いて、投与前、投与中の腫瘍内の免疫担当細胞、腫瘍細胞の遺伝子発現プロファイルを詳細に解析することで予後に関与する因子を明らかにする試みを行った。効果を示した群と効果を認めなかった群との比較を行っているが、効果があった群は治療開始前から腫瘍に感作されたT細胞のクローン増殖が認められ、抗PD1抗体投与でクローン増殖はさらに増強された。またT細胞のクローン増殖を伴う分化の軌跡を追うことで複数に枝分かれしてことを明らかにした。一方効果が認められなかった群ではT細胞のクローン増殖は乏しく、抗PD1抗体投与でもT細胞に活性化等の変化は見られなかった。この違いが生じる原因について、T細胞の教育細胞である樹状細胞、Macrophageの性質に違いがあり、さらにそれらの細胞の性質の違いは腫瘍のMHCの発現等の腫瘍の性質の違いによることを示唆した。
監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科 癌ワクチン療法学寄付講座 寄附講座教 坪井 昭博先生