難病Update

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FLT3-ITDキナーゼ阻害薬

2021.08.31

midostaurin投与下でのFLT3-ITD変異を伴う急性骨髄性白血病のクローン進化

Clonal evolution of acute myeloid leukemia with FLT3-ITD mutation under treatment with midostaurin

Laura K Schmalbrock*, Anna Dolnik, Sibylle Cocciardi*, Eric Sträng, Frauke Theis*, Nikolaus Jahn*, Ekaterina Panina*, Tamara J Blätte, Julia Herzig*, Sabrina Skambraks*, Frank G Rücker*, Verena I Gaidzik*, Peter Paschka*, Walter Fiedler, Helmut R Salih, Gerald Wulf, Thomas Schroeder, Michael Lübbert, Richard F Schlenk, Felicitas Thol, Michael Heuser, Richard A Larson, Arnold Ganser, Hendrik G Stunnenberg, Saverio Minucci, Richard M Stone, Clara D Bloomfield, Hartmut Döhner*, Konstanze Döhner*, Lars Bullinger

*Department of Internal Medicine III, University Hospital of Ulm, Ulm, Germany

Blood. 2021 Jun 3;137(22):3093-3104. doi: 10.1182/blood.2020007626.

多国間無作為化第3相RATIFY試験(Randomized AML Trial In FLT3 in patients less than 60 Years old)では、マルチキナーゼ阻害薬midostaurinによって18 - 59歳のFLT3遺伝子変異を有する急性骨髄性白血病(AML)患者の全生存期間および無イベント生存期間が有意に改善された。しかしながら、治験実施計画書に規定された完全寛解(CR)を達成した患者はmidostaurin群の59%にすぎず、また、CRに到達した患者のほぼ半数が再発をきたした。耐性の根底にある機序を探索するため、RATIFY試験またはGerman-Austrian Acute Myeloid Leukemia Study Group 16-10試験に参加してmidostaurinの投与を受けたFLT3-internal tandem duplications(ITD)陽性のAML患者におけるクローン進化のパターンを解析した。この目的のために、患者54例から、診断時および、再発時または難治性と判断された時点のペア検体を採取し、従来のGenescanをベースにしたFLT3-ITDに関する検査と全エクソームシーケンスを用いて解析を行った。治療に対する耐性または病気の増悪が認められた時点で、半数近い患者(46%)はFLT3-ITD陰性となっていたがMAPKなどのシグナル伝達経路に関連する遺伝子の変異を獲得しており、これが新たな増殖優位性をもたらした可能性がある。FLT3-ITD変異が維持されていた症例においては、その11%に、疾患を進展・増悪させる(疾患のドライバーとして機能する)可能性のある耐性ITDクローンの選択が認められた。32%の症例にはFLT3-ITD変異の変化は観察されず、FLT3の阻害を回避する耐性機序、あるいは、midostaurinの薬物濃度が適切でなかったことによるその阻害効果の欠如が示唆された。この研究は、強力な化学療法と併用してmidostaurinの投与を受けるFLT3-ITD変異陽性AML患者における白血病細胞のクローン進化および耐性機序に関する新たな知見を与えるものである。


URL
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/33598693/

コメント
チロシンキナーゼを阻害する分子標的薬であるイマチニブは、慢性骨髄性白血病(CML)の予後を著明に改善した。CMLは、造血幹細胞移植(それには、治療関連死や治療に関連するQOLの大幅な低下のリスクが一定の割合で存在する)以外では長期生存を望めない疾患であったが、イマチニブをはじめとするチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の継続的な内服治療により長期生存・治癒可能な疾患となった。

CMLと同じく造血器悪性腫瘍の急性骨髄性白血病(AML)に対しても分子標的薬が出現し、さらなる治療効果・患者予後の改善が期待されている。しかしながら、薬剤に耐性を示す白血病細胞の出現などまだまだ改善すべき問題が多々あり、CMLに対するTKIほどの有用性(高率に長期生存・治癒に結び付く)を示すには至っていない。これを解決するためには、「どのような耐性細胞が生き残るのか?」を丹念に解析する必要があり、この解析の積み重ねが薬剤耐性メカニズムの解明や、さらには、それを克服する治療の開発につながると考えられる。本論文はこのテーマを扱ったものであり、興味深い解析結果が示されている。

現在、AMLに対する治療の柱は化学療法と造血幹細胞移植であるが、さらに、本論文でとりあげられている分子標的薬やさらには免疫治療をそれらに組み合わせることにより、さらなる予後改善への試みが続けられると思われる。

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