難病Update

難病Update

BNT162b2 mRNAChAdOx1 nCoV-19covid-19 vaccineSARS-CoV-2thrombocytopeniathromboembolism

2021.09.24

新型コロナウイルス感染症(covid-19)ワクチン接種および新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)検査陽性後の血小板減少症と血栓塞栓症のリスク:自己対照症例シリーズ研究

Risk of thrombocytopenia and thromboembolism after covid-19 vaccination and SARS-CoV-2 positive testing: self-controlled case series study

Julia Hippisley-Cox*, Martina Patone, Xue W Mei, Defne Saatci, Sharon Dixon, Kamlesh Khunti, Francesco Zaccardi, Peter Watkinson, Manu Shankar-Hari, James Doidge, David A Harrison, Simon J Griffin, Aziz Sheikh, Carol A C Coupland

 

*Nuffield Department of Primary Health Care Sciences, University of Oxford, Oxford, UK julia.hippisley-cox@phc.ox.ac.uk.

 

BMJ. 2021 Aug 26;374:n1931. doi: 10.1136/bmj.n1931.

 

新型コロナウイルス感染症(covid-19)のワクチン接種後に血小板減少症および血栓塞栓性などの血栓症の発生リスクがあることが指摘されている。2020年12月1日 - 2021年4月24日の期間にイングランドでワクチン接種を受けた約3,000万人の患者データを使って評価した。データは政府統計局の死亡者、SARS-CoV-2の検査陽性者、英国のNHSの入院者のデータを用いた。ワクチンは、ChAdOx1 nCoV-19(以下、アストラゼネカ社製と略する)とBNT162b2 mRNA(以下ファイザー社製と略する)である。1回目のワクチン接種者は29,121,633人、アストラゼネカ社製ワクチン接種者が19,608,008人、ファイザー社製ワクチン接種者が9,513,625人であった。SARS-CoV-2検査陽性者は1,758,095人であった。本研究では、評価対象の疾患の転帰が確認できた16歳以上の人々を分析対象とした。

 

主要評価のイベントは、28日以内の血小板減少症、静脈血栓塞栓症および動脈血栓塞栓症に関連する入院または死亡とした。副次的なイベントとして、脳静脈洞血栓症(CVST)、虚血性脳卒中、心筋梗塞、その他の希少な動脈血栓性疾患の発生リスクを検討した。

 

アストラゼネカ社製ワクチンの接種者の血小板減少症の発生リスク比は1.33(95%CI:1.19 - 1.47、8 - 14日目)、SARS-CoV-2の検査陽性者では5.27(4.34 - 6.40、8 - 14日目)であった。アストラゼネカ社製ワクチンによる静脈血栓塞栓症の発生リスク比は1.10(1.02 - 1.18、8 - 14日目)であった。SARS-CoV-2感染者では13.86(12.76 - 15.05、8 - 14日目)であった。ファイザー社製ワクチンの接種者の動脈血栓塞栓症の発生リスク比は1.06(1.01 - 1.10、15 - 21日目)、SARS-CoV-2感染者では2.02(1.82 - 2.24、15 - 21日目)であった。副次的な疾患のCVSTの発生の二次分析を行ったところアストラゼネカ社製ワクチン接種者のリスク比は4.01(2.08 - 7.71、8 - 14日目)、ファイザー社製ワクチン接種者では3.58(1.39 - 9.27、15 - 21日目)であった。SARS-CoV-2検査陽性者でもCVSTのリスク比は高かった。虚血性脳卒中の発生リスク比については、ファイザー社製ワクチン接種者は1.12(1.04 - 1.20、15 - 21日目)であった。その他の希少な動脈血栓性疾患の発生リスク比は、アストラゼネカ社製ワクチン接種者では1.21(1.02 - 1.43、8 - 14日目)と上昇していた。いずれもSARS-CoV-2検査陽性者でも高いことが確認された。

 

URL

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34446426/

 

コメント

COVID-19のワクチンの接種後にまれに血小板減少症および血栓塞栓性などの血栓症が発生することが報告され、日本ではアストラゼネカ社製のワクチンの使用が敬遠されてきた。アストラゼネカ社製ワクチンはどの程度血小板減少症、静脈血栓塞栓症、およびその他の動脈血栓症のリスクを高めているのだろうか。それを大規模なイングランドの国民のデータを使って検証したものである。本研究ではファイザー社製ワクチン接種後も動脈血栓塞栓症および虚血性脳卒中のリスク上昇が確認された。脳静脈洞血栓症は、アストラゼネカ社製と比べファイザー社製のワクチンによる発症は1週間遅く発症していた。両ワクチンの接種者とも、SARS-CoV-2感染者よりも、血栓症の発生リスクは遙かに低かった。アストラゼネカ社製のワクチンを積極的に接種してきたイギリスがその接種者のデータを使って、即行った実践的な実証研究である点を評価する。

 

監訳・コメント:関西大学 社会安全学研究科 公衆衛生学 高鳥毛 敏雄先生

一覧へ