難病Update

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B細胞リンパ腫CAR Tペムブロリズマブ免疫チェックポイント阻害薬

2021.10.26

CD19を標的とするCAR T細胞療法後に再発した、またはこの治療に不応のB細胞リンパ腫に対するペムブロリズマブ

Pembrolizumab for B-cell lymphomas relapsing after or refractory to CD19-directed CAR T-cell therapy

Elise A Chong*, Cécile Alanio, Jakub Svoboda, Sunita D Nasta, Daniel J Landsburg, Simon F Lacey, Marco Ruella, Siddharth Bhattacharyya, E John Wherry, Stephen J Schuster

*University of Pennsylvania, Philadelphia, Pennsylvania, United States.

Blood. 2021 Sep 9;blood.2021012634. doi: 10.1182/blood.2021012634. Online ahead of print.

CD19を標的とするキメラ抗原受容体T細胞(CAR T細胞)療法は、再発または難治性大細胞型B細胞リンパ腫患者の30 - 40%において長期の寛解を達成する。T細胞の疲弊および/または免疫抑制性の腫瘍微小環境は、そのCAR T細胞療法が十分な効果を発揮できない原因になり得る。PD1に対する抗体(免疫チェックポイント阻害薬)であるペムブロリズマブはCAR T細胞療法後のT細胞の疲弊を回復させる可能性がある。CD19を標的とするCAR T細胞(共刺激分子4-1BBを組み入れている)に不応の(9例)、またはこの治療後に再発した(3例)B細胞リンパ腫患者12例に、ペムブロリズマブ200 mgを3週ごとに静脈内投与した。CAR T細胞の注入からペムブロリズマブの初回投与までの期間の中央値は3.3ヵ月(範囲:0.4 - 42.8ヵ月)であった。ペムブロリズマブの忍容性は良好であり、唯一の因果関係が認められたグレード3以上の有害事象は好中球減少症(3例、25%)であった。ペムブロリズマブ投与後の最良全奏効率は3/12(25%)(完全奏効[complete response]1例、部分奏効[partial response]2例)であった。1例(8%)は安定(stable disease)と評価されたため、12例中4例(33%)に臨床的有用性が認められたこととなる。ペムブロリズマブの投与後には、マスサイトメトリー(CyTOF)を用いた解析ではこれらの4例でCAR T細胞の割合が増加し、また、その4例中3例で、導入されたCAR19遺伝子量が増加した(定量PCR法)。マスサイトメトリーを用いた詳細な免疫プロファイリング解析(deep immune profiling)では、臨床効果が認められた患者でのCAR T細胞の活性化と増殖、並びにT細胞の疲弊度の減少が明らかとなった。これらの知見から、CD19を標的としたCAR T細胞療法に不応の、またはこの治療後に再発したB細胞リンパ腫患者の一部に対しては、その後のペムブロリズマブによるPD1遮断治療は、安全な、そして、臨床効果をもたらし得る治療法であると考えられる。

URL
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/34496014/

コメント
B細胞系非ホジキン悪性リンパ腫(NHL)は多剤併用化学療法や抗CD20抗体製剤に感受性がある場合が多く、組織型により、それらの治療などにより治癒する症例も多い。しかしながら、当然、難治性のものもあり、それらには、『大量化学療法+自家造血幹細胞移植』や『移植前処置(放射線・化学療法など)+同種造血幹細胞移植』も考慮される。さらに、最近、難治性B細胞系造血器腫瘍に対しての治療法として、細胞表面のCD19を標的としたCD19-CAR(chimeric antigen receptor)-T細胞療法が登場した。遺伝子操作によりCD19を認識できる自己Tリンパ球を体外で作成し増殖させそれを体内にもどしCD19陽性Bリンパ系腫瘍細胞を攻撃するものである。

CD19-CAR-T細胞療法に対しては多くの症例が反応するが、投与される症例が難治性であることもあり、長期に寛解を維持するという面からは、未だ治療成績は満足のいくものではない。一方、免疫抑制シグナルを阻害する免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は癌免疫療法として広く使われており、それは、癌細胞を攻撃標的として認識するTリンパ球が癌細胞を攻撃しやすい状況を作り出すことにより、免疫機序による抗癌作用を発揮する。本論文においては、CD19-CAR-T細胞療法を行ったがその効果が不十分であったB細胞系NHL患者にICI製剤であるペムブロリズマブを投与して、臨床効果と免疫反応を解析している。ペムブロリズマブ投与により寛解に到達する症例があり、当然臨床的に興味深いものであるが、さらに、最新の解析ツールであるCyTOFを用いて、リンパ球(移入されたCAR-T細胞も含む)に発現する多くの抗原を経時的に解析している結果(『移入CAR T細胞の状態の変化を可視化』など)も非常に興味深い。

監訳・コメント:大阪大学大学院 医学系研究科 癌幹細胞制御学寄附講座 寄附講座教授 岡 芳弘先生

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