L K Metthew Lam*, Sophia Murphy*, Dimitra Kokkinaki*, Alessandro Venosa, Scott Sherrill-Mix, Carla Casu, Stefano Rivella, Aaron Weiner, Jeongho Park, Sunny Shin, Andrew E Vaughan, Beatrice H Hahn, Audrey R Odom John, Nuala J Meyer*, Christopher A Hunter, G Scott Worthen, Nilam S Mangalmurti*
Division of Pulmonary, Allergy and Critical Care, Perelman School of Medicine at the University of Pennsylvania, Philadelphia, PA 19104, USA
Sci Transl Med. 2021 Oct 20;13(616):eabj1008. doi: 10.1126/scitranslmed.abj1008. Epub 2021 Oct 20.
赤血球は血流を介して組織へ酸素を運搬することで細胞の好気呼吸に不可欠な役割をはたしている。これまで赤血球は免疫学的には不活性と考えられており、二次的な機能はほとんど確認されていない。本研究により、赤血球は核酸を感知するToll様受容体9(TLR9)を細胞表面に発現することにより重要な免疫センサーとして機能することが示された。哺乳類の赤血球は表面にTLR9を発現しており、細菌、原虫およびミトコンドリア由来のCpG配列を含むDNAと結合する。ヒトやマウスの敗血症や肺炎では、赤血球と結合したミトコンドリアDNAが増加していた。生体内ではCpGと結合した赤血球は赤血球貪食を促進し、インターフェロンのシグナル伝達の亢進を特徴とする自然免疫の活性化を誘導した。その一方、赤血球特異的にTLR9を欠損させた場合ではCpGにより誘導される炎症や多菌性敗血症の状況下でも赤血球貪食は阻害され、局所および全身のサイトカインの産生が低下した。このように、TLR9を発現する赤血球が核酸を感知し結合することによって、赤血球のクリアランスおよび炎症性サイトカインの産生を制御していた。このことから病的な状態では赤血球が免疫の見張り役として機能していることが示された。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の合併症であるウイルス性肺炎および敗血症の患者においても、赤血球と結合したミトコンドリアDNAの増加が観察され、貧血および疾患の重症度との関連が認められた。これらの結果から、赤血球はガス交換における機能以外にも、炎症においてこれまで知られていなかった重要な役割を担うことが明らかとなった。
URL
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/34669439/
コメント
赤血球は血液中で最も数が多いが核を持たないためガス交換以外の機能についてあまり注目されてこなかった経緯があるが、本研究では免疫反応の一役を担うことを示した。細菌由来のCpG-DNAやミトコンドリアDNAを認識するTLR9が免疫担当細胞以外の赤血球の表面にも発現していることは驚きであった。また敗血症や肺炎、マラリア感染症のように血中CpG-DNA濃度が高くなる状況ではCpG-DNAはTRL9を介して赤血球の形態変化とCD47の発現低下を誘導し、赤血球貪食と自然免疫系の活性化を誘導した。このことは敗血症時の貧血やハイパーサイトカインシンドロームの機序を明らかにすることにつながると考えられた。この分野のさらなる発展を期待したい。
監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科 癌ワクチン療法学寄付講座 寄附講座教授 坪井 昭博先生