難病Update

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E6/E7遺伝子不死化赤芽球細胞株赤血球輸血

2022.01.27

誘導性遺伝子発現系を用いずに分化能を維持したヒト赤血球不死化細胞株の樹立

Establishment of an immortalized human erythroid cell line sustaining differentiation potential without inducible gene expression system

Svetlana Soboleva*, Ryo Kurita, Naoko Kajitani, Hugo Åkerstrand, Kenichi Miharada

*Division of Molecular Medicine and Gene Therapy, Lund Stem Cell Center, Lund University, Lund, Sweden.

Hum Cell. 2022 Jan;35(1):408-417. doi: 10.1007/s13577-021-00652-7. Epub 2021 Nov 24.

増殖し続けることのできる不死化赤芽球細胞株から産生した赤血球(RBC)は、今後の輸血治療での利用が期待されている。不死化赤芽球細胞株は、ヒトパピローマウィルス(HPV)の持つE6/E7遺伝子の導入により樹立することができる。しかし、不死化細胞株の分化および成熟を誘導するには、遺伝子導入システムによるHPV-E6/E7の発現の停止が不可欠であると考えられてきた。本研究では、簡易なHPV-E6/E7の発現を用いてヒトの骨髄から樹立した赤芽球細胞株は、遺伝子発現を停止しなくても正常な赤血球へと分化することができた。この新規細胞株Erythroid Line from Lund University(ELLU)は、培養条件を変えるだけで、脱核した網赤血球などの成熟細胞への分化が可能である。ELLUは不均一であり、意外なことに成体型ヘモグロビンを発現するクローンは速やかに分化し、脆弱な細胞へと変化した。一方胎児型ヘモグロビンを発現していたELLUのクローンは、分化すると成体型ヘモグロビンを発現するようになり、より多くの成熟細胞が産生された。これらの結果は、分化能力を維持した不死化赤芽球細胞株を樹立する際にE6/E7遺伝子発現調整システムは不要であることを示しており、また本研究によって十分な機能を有する望ましいクローンの細胞特性が明らかとなった。

URL
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/34817797/

コメント
近年、日本を含む多くの国で輸血用の血液が不足する状態が続いているほか、献血によって集められた血液であっても、ウィルス感染などによる汚染の危険性があり、より安全かつ安定的な非献血由来の輸血用血液の供給が求められている。

この状況の打開のために、赤血球を体外で作り出して輸血に用いる方法などが考えられている。これまで、大量の赤血球を人工的に作製することを目指し、臍帯血や骨髄などに含まれる造血幹細胞を用いる方法が研究されていた。しかし、造血幹細胞は稀な細胞であることから、輸血で必要とされるだけの赤血球を作製することが困難であった。そのため赤血球になる手前の幼若な細胞である赤芽球を不死化した細胞(細胞株)を樹立し、半永久的に増殖させることで、赤血球を大量に作製する方法が試されるようになってきた。

本研究では、ヒトの骨髄に含まれる造血幹細胞から誘導した赤芽球にヒトパピローマウィルス(HPV)の持つE6/E7遺伝子を導入することでELLU細胞を樹立。ELLU細胞は1年以上にわたって安定した増殖を続けており、不死化され培養可能な細胞集団と判断されるとしている。またこれまでは増殖中の赤芽球細胞株に分化・成熟を促し、赤血球にするためにはHPV-E6/E7遺伝子の働きを止める必要があると考えられてきた。しかしELLU細胞ではHPV-E6/E7遺伝子の働きを止めずに培養条件を変えるだけで分化が起こり、ヘモグロビン合成や核の凝縮などの赤芽球分化で起こる現象が観察され、中には核を放出(脱核)してより成熟した細胞へ変化するものも確認されたという。ただ、ELLU細胞から完全な赤血球ができる割合は、まだ高くないようで、今後は、今回の成果をもとに、さらに赤血球を作る能力が高い細胞株を樹立したり、赤血球への分化効率を高めたりする研究につながることが期待される。

監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科 癌ワクチン療法学寄付講座 寄附講座教授 坪井 昭博先生

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