難病Update

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MCINun Study治験認知症予備能

2022.03.29

認知予備能と軽度認知障害:認知症への進行と比較した正常な認知機能への回復の予測因子と発生割合

Cognitive Reserve and Mild Cognitive Impairment: Predictors and Rates of Reversion to Intact Cognition vs Progression to Dementia

Maryam Iraniparast*, Yidan Shi*, Ying Wu*, Leilei Zeng*, Colleen J Maxwell*, Richard J Kryscio*, Philip D St John*, Karen S SantaCruz*, Suzanne L Tyas

 

* From the School of Public Health Sciences (M.I., C.J.M., S.L.T.), Department of Statistics and Actuarial Science (Y.S., Y.W., L.Z.), and School of Pharmacy (C.J.M.), University of Waterloo, Canada; School of Statistics and Data Science (Y.W.), Nankai University, Tianjin, China; Departments of Statistics and Biostatistics and Sanders-Brown Center on Aging (R.J.K.), University of Kentucky, Lexington; Department of Medicine, Section of Geriatric Medicine, Max Rady College of Medicine (P.D.S.), and Centre on Aging (P.D.S.), University of Manitoba, Winnipeg, Canada; and Department of Laboratory Medicine and Pathology (K.S.S.), University of New Mexico School of Medicine, Albuquerque.

 

Neurology. 2022 Mar 15;98(11):e1114-e1123. doi: 10.1212/WNL.0000000000200051. Epub 2022 Feb 4.

 

軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)から正常な認知機能(normal cognition:NC)に回復する割合や、教育や認知予備能の影響についてはほとんど明らかにされていない。本研究の目的は、1)MCIからNC、認知症への移行割合を推定すること、2)年齢、アポリポ蛋白E(apolipoprotein E:APOE)、認知予備能指標が進行に対する回復の相対的割合(relative rate:RR)に及ぼす影響をマルチステートマルコフモデルにより検討することとした。75歳以上の修道女を対象としたコホート研究であるNun Studyで実施した最大12回の評価におけるNC、MCI、認知症への瞬間移行割合を、死亡への移行を考慮して推定した。年齢およびAPOEのほか、学業成績、書く技能(idea density、文法の複雑性)について、進行に対する回復のRRを推定した。

 

参加者619例中472例が研究期間中にMCIと評価された。この472例のうち143例(30.3%)にNCへの逆行が少なくとも1回みられており、その143例のうち120例(83.9%)は最後まで認知症を発症しなかった(平均追跡期間8.6年)。年齢群およびAPOEで調整したモデルでは、高学歴群における進行に対する回復のRR比は2倍を超えていた。新たな認知予備能指標は、進行に対する回復の調整RRが高いことと有意に関連していた(高水準群 vs. 低水準群の比較で、英語の評定はRR比1.83、idea densityはRR比3.93、文法の複雑性はRR比5.78)。

 

 

URL

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35121669/

 

コメント

ADの病因の一つとして、タウ蛋白が細胞内蓄積することが指摘されてきたが、最近東大の岩坪先生らのグループが、タウの除去を担うグリンパティックシステムの機能が低下したマウスでは、タウの蓄積が増加し、神経細胞が失われることを最近発表され(Journal of Experimental Medicineのオンライン版:2月25日)、病態修飾治療の開発も近々の感がある。開発における律速段階は、おそらく、治験参加者が集まるかどうかであろう。治験で重要なことは、AD患者ではなく、MCIの段階の患者が治験に参加していただけるかどうかである。現時点では、一旦MCIと診断されることは、将来AD発症へ繋がることを意味し、心的恐怖は計り知れず、MCI診断から治験参加への希望者の確保は困難が予想される。今回の報告は、以前Nun studyを発表した施設からのものであるが、MCIからNCへの回復が頻繁に起こることを指摘しており、MCI患者における認知機能の低下は不可避であるという懸念が緩和される可能性がある。また、参加者の大部分に介入なしで改善がみられ得ることを考えると、これらの結果からMCIに関する臨床試験のデザインや解釈についての情報が得られる可能性がある。MCIと診断されることの心の負荷は少なくなり、治験参加者も増えることが予測され、病態修飾薬の開発には、朗報と考えられ取り上げた。

 

監訳・コメント:国立病院機構 大阪南医療センター 神経内科 狭間 敬憲先生

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