難病Update

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加齢小児腫瘍

2022.03.29

若齢の担癌宿主における抗原のクロスプレゼンテーションはCD8陽性T細胞の終末分化を促進する

Antigen cross-presentation in young tumor-bearing hosts promotes CD8 + T cell terminal differentiation

Ardiana Moustaki*, Jeremy Chase Crawford*, Shanta Alli*, Yiping Fan, Shannon Boi*, Anthony E Zamora*, Natalie M N McDonald*, Gang Wu, Joy Nakitandwe, Scott Newman, Scott Foy, Antonina Silkov, Paul G Thomas*, Alberto Pappo, Michael A Dyer, Elizabeth Stewart, Sara Federico, Ben Youngblood*

 

*Department of Immunology, St. Jude Children's Research Hospital, Memphis, TN 38105, USA.

 

Sci Immunol. 2022 Feb 4;7(68):eabf6136. doi: 10.1126/sciimmunol.abf6136. Epub 2022 Feb 4.

 

免疫系には、加齢とともに進行性の機能的リモデリングが生じる。加齢に伴う免疫系の機能変化がどのようにおこるかを理解することは、特に小児患者に対する効果的免疫療法を考える上で不可欠である。本研究では(思春期前の)若齢マウスおよび(老化前の)成体マウスにおける抗腫瘍性のCD8陽性T細胞の応答について検討した。MHC1欠損腫瘍モデルを用いた試験では、若齢担癌(TB)マウスで増殖した腫瘍応答性CD8陽性T細胞は、抑制性受容体およびエグゾーストマーカーである転写因子Tox1の過剰発現を特徴とする終末分化の表現型を示した。さらに、TBマウスの腫瘍浸潤CD8陽性T細胞は、成体の腫瘍浸潤CD8陽性T細胞よりサイトカイン産生細胞の割合が低下していた。流入領域リンパ節(dLN)由来の移動性樹状細胞および若齢腫瘍に浸潤した単核貪食細胞(MPC)は、腫瘍抗原の捕捉およびクロスプレゼンテーションの能力が高く、その結果dLNにおけるCD8陽性T細胞のプライミングおよびその後の腫瘍内での終末分化に導いた。腫瘍浸潤MPCのシングルセル転写プロファイリングでは、若齢由来のMPCは炎症性のエフェクター表現型に偏っていることが示された。若齢および成体の担癌マウスを比較した際の観察結果と一致して、小児の固形腫瘍を用いた免疫浸潤の解析では、疲弊した腫瘍浸潤CD8陽性T細胞とPD-L1を発現する単球/マクロファージの頻度との相関が示された。要約すると、若齢腫瘍組織の微小環境は、反応性の乏しい終末型エフェクターの状態に偏った免疫状態に誘導しており、免疫療法の効果を期待しにくくなっていることが示された。

 

URL

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/35119937/

 

コメント

抗PD1抗体などのチェックポイント阻害抗体を用いた治療は成人腫瘍に対して広く行われるようになってきたが、小児腫瘍に対する治療効果は低いという報告がある。小児腫瘍は少数のドライバー遺伝子の変異により発症するため、多数の遺伝子異常の蓄積の結果発症する成人腫瘍のようにネオアンチゲン(新抗原)が多くないのがその原因ではないかと考察がある一方、少数のネオアンチゲンでも十分な免疫反応を起こし腫瘍を排除できるという報告がある。そのためチェックポイント阻害抗体に対する反応性の低下の原因は他にもあるのではと考えたのが研究の背景となっている。若齢マウスと成体マウスを比較する系で解析しており、担癌若齢マウスの腫瘍内に浸潤しているCD8陽性T細胞は抗原に対する反応が低下しており、疲弊の表現型を呈していた。その原因を解析した所、流入領域リンパ節由来の移動性樹状細胞や若齢腫瘍に浸潤した単核貪食細胞がT細胞に働きかけてT細胞を反応性の乏しい最終分化に向かわせている事が明らかとなった。移動性樹状細胞や腫瘍浸潤単核貪食細胞を制御できるようになれば免疫療法の効果を増強できるかもしれない。

 

監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科 癌ワクチン療法学寄付講座 招へい教授 坪井 昭博先生

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