難病Update

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オールトランス型レチノイン酸リツキシマブ免疫性血小板減少症特発性血小板減少性紫斑病

2022.04.26

副腎皮質ステロイド抵抗性または再発のITP(免疫性血小板減少症)に対する『オールトランス型レチノイン酸および低用量リツキシマブ併用療法』と『低用量リツキシマブ単独療法』の比較

All-trans retinoic acid plus low-dose rituximab vs low-dose rituximab in corticosteroid-resistant or relapsed ITP

Ye-Jun Wu*, Hui Liu, Qiao-Zhu Zeng*, Yi Liu, Jing-Wen Wang, Wen-Sheng Wang, Jia-Feng, He-Bing Zhou, Qiu-Sha Huang*, Yun He*, Hai-Xia Fu*, Xiao-Lu Zhu*, Qian Jiang*, Hao Jiang*, Ying-Jun Chang*, Lan-Ping Xu*, Xiao-Jun Huang*, Xiao-Hui Zhang*

*Peking University People's Hospital, Peking University Institute of Hematology, Beijing, China.

Blood. 2022 Jan 20;139(3):333-342. doi: 10.1182/blood.2021013393.

本研究は、副腎皮質ステロイド抵抗性または再発の免疫性血小板減少症(immune thrombocytopenia: ITP)患者を対象として、オールトランス型レチノイン酸(ATRA)および低用量リツキシマブ(LD-RTX)の併用療法とLD-RTX単独療法の有効性および安全性を比較することを目的として実施した。患者を2:1の比率で『LD-RTX+ATRA』群(112例)または『LD-RTX単独療法』群(56例)に無作為に割り付けた。全奏効(Overall response: OR)は、登録後1年以内に以下のことを達成した場合と定義した:7日以上の間隔を空けて2回以上血小板数≧30×109/Lが確認される;他のITP治療なしにベースライン(治療前)の血小板数が2倍以上に増加する;出血がみとめられない。その全奏功は、『LD-RTX+ATRA』群の方が『LD-RTX単独療法』群より多かった(前者、後者は、それぞれ、80%、59%で、群間差0.22、95%信頼区間[CI]0.07 - 0.36)。持続的奏効(Sustained response: SR)は、登録後1年の間にORを達成しその後6ヵ月間連続して以下のことが維持される状態と定義した:血小板数>30×109/Lである;出血がみとめられない;他のITP治療を要さない。その持続的奏効を達成した患者は、併用療法群では68例(61%)、単独療法群では23例(41%)であった(群間差0.20、95%CI 0.04 - 0.35)。併用療法群で最も高頻度に観察された2つの有害事象は、皮膚乾燥、そして、頭痛またはめまいであった。この試験の結果は、LD-RTXとATRAの併用療法は全奏効および持続的奏効を有意に増加させ、その併用療法が成人の副腎皮質ステロイド抵抗性または再発のITPに対する有望な治療選択肢となり得ることを示した(www.clinicaltrials.govにおける登録番号:NCT03304288)。

URL
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34665865/

コメント
特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura: ITP)は、末梢血中の血小板が減少しその減少の程度により出血症状が生じ得る疾患であり、難病に指定されている。血小板の減少は、免疫機序による血小板の破壊によるものであり、特発性(idiopathic)を免疫性(immune)に置き換えて(ともに頭文字はI)、本論文にあるようにprimary immune thrombocytopeniaとも呼ばれる。免疫機序がベースにあり、そのため治療はステロイドが中心となり(ピロリ菌除菌により改善するものは除く)、また、その他にも有効な治療薬が出現してきた。しかしながら、それらの使用にもかかわらず難治性のものも存在する。

オールトランス型レチノイン酸(all-trans retinoic acid: ATRA)は急性前骨髄性白血病(acute promyelocytic leukemia: APL)の白血病細胞の分化の停止を解除しその細胞を分化させる働きがあり、ATRAのAPL治療への導入はその治療成績を飛躍的に向上させた。ATRAと造血器疾患治療の間にはこのような歴史がある。一方、ITPにおいて、ATRAは血小板を産生する巨核球の分化や成熟を誘導すること、免疫調整作用があることなどが報告されている。

本論文においては、難治性ITPに対しての低用量リツキシマブ(Bリンパ球表面に存在するCD20に結合することにより抗血小板抗体を産生するBリンパ球を傷害することが想定される)とATRAの併用療法について述べられており、その併用療法は難治性ITPに対する新たな治療選択肢になる可能性がある。

監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科 癌幹細胞制御学寄附講座 寄附講座教授 岡芳弘先生

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