2022.04.26
クロイツフェルト・ヤコブ病の抗プリオン蛋白質に対するモノクローナル抗体(PRN100)を使ったはじめての治験
Prion protein monoclonal antibody (PRN100) therapy for Creutzfeldt–Jakob disease: evaluation of a first-in-human treatment programme
* MRC Prion Unit at UCL, UCL Institute of Prion Diseases, University College London, London, UK; National Prion Clinic, National Hospital for Neurology and Neurosurgery, London, UK.
Lancet Neurol. 2022 Apr;21(4):342-354. doi: 10.1016/S1474-4422(22)00082-5.
クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)は、急速に進行する致死率の高い神経変性疾患である。原因は神経細胞内にプリオン蛋白質(PrPC)が集積することによるもので、現在は効果的な治療法はない。近年、非臨床研究(動物実験)でPrPCを標的とした抗体が有効であることが示されたので、次にヒトに対する抗PrPCモノクローナル抗体(PRN100)を作製して、人に投与する治験を行った。対象と方法は、発症早期のCJDであることがほぼ確実な6例に対して、2週間ごとにPRN100を80~120 mg/kg静注投与するというものであった。治療効果の評価は、Medical Research Council(MRC)のScaleを用いた。治療効果の評価は、症例とマッチさせた未治療の対照者と比較して行った。死亡者については剖検し、対照者と比較した。
各症例のPRN100静注投与により6例中4例において目標とした脳脊髄液中薬物濃度(50 nM)を達成できた。また、臨床的に明確な有害反応は認められなかった。症例においてMRC Scaleによる評価では神経学的所見の進行が抑制されていた。140日にわたる長期の治療を受けた医原性CJD患者1例の剖検所見では、対照者とは異なる疾患に関連する関連PrPパターンを認め、これは治療の効果を示す所見と考えた。特発性CJD患者の80 mg/kgの投与を1回のみ受けて死亡した1例についても、剖検で脳室周囲領域にPrPの弱いシナプス標識を認めた。
URL
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35305340/
コメント
CJDなどのプリオン病は、細胞プリオンタンパク質(PrPC)の集合体によって引き起こされる。この異常なプリオンタンパク質の蓄積は、他の神経変性認知症、特にアルツハイマー病にも関係しているとされている。すでに、PrPCを標的とするモノクローナル抗体は、培養細胞や動物においては効力があることが示されている。本研究では、特別許可を受けて6例のCJD患者に抗PrPCモノクローナル抗体(PRN100)薬を投与している。副作用は少なく、疾患の進行を抑制することが示唆された。しかし、まだ症例数が少なく、有効であるとの結論には至っていない。この医薬品がCJDの発症予防や発症遅延に有効かどうかの研究をさらに進める必要がある。希少疾患に対する医薬品の評価研究は製薬業界主導のモデルでは進まないので、本研究は学術団体が主導して行っている。このやり方は致命的な希少疾患に対する治療薬の開発と治療効果評価のあり方の事例として注目される。
監訳・コメント:関西大学 社会安全学研究科 公衆衛生学 高鳥毛 敏雄先生