2022.06.29
関節炎における軟骨変性とフィブリン沈着との関連の検討
Fibrin deposition associates with cartilage degeneration in arthritis
Thomas Hügle*, Sonia Nasi, Driss Ehirchiou*, Patrick Omoumi, Alexander So*, and Nathalie Busso*
*Department of Rheumatology, Lausanne University Hospital (CHUV) and University of Lausanne, Chemin des Boveresses 155, Epalinges 1066, Switzerland.
EBioMedicine. 2022 May 31;81:104081. doi: 10.1016/j.ebiom.2022.104081. Online ahead of print.
炎症性関節炎における軟骨損傷は、炎症性サイトカインおよびパンヌス(炎症により関節滑膜細胞が増殖形成してつくられる絨毛状組織)によっておこる。また、凝固系の活性化が関節炎、特に関節リウマチでみられる特徴の一つとなっている。このフィブリンと軟骨変性との関係について、関節組織を使い実験で確かめた。
「関節リウマチ(RA)および変形性関節症(OA)の「ヒト」の軟骨および滑膜組織と「野生型」または「フィブリノーゲン欠損マウス」のマウスアジュバント誘発関節炎(AIA)の軟骨および滑膜組織のフィブリン沈着を染色により調査した。軟骨細胞の「フィブリノーゲンの発現および凝固促進活性」をqRT-PCR解析および比濁法を使い評価した。ヒトRA軟骨と滑膜細胞の共培養およびAIAモデルの「軟骨・滑膜の癒着の状態」を調査した。ヒトRAおよびOA軟骨とin vitroのフィブリノーゲン刺激軟骨細胞の「石灰沈着物」を染色し調査した。
その結果、ヒトRA外植片および野生型マウスのAIAにおいて、「軟骨上のフィブリン沈着の状態」と「軟骨損傷の重症度」とが相関していることを認めた。フィブリノーゲン欠損マウスには軟骨の損傷を認められなかった。フィブリンは軟骨細胞のAdamts5およびMmp13を増加させていた。フィブリンを多く含む軟骨領域にのみ軟骨・滑膜の癒着が発生し、軟骨損傷との相関を認めた。In vitroで、RA軟骨外植片上で培養された自家ヒト滑膜細胞のフィブリンを多く含む領域だけに癒着が認められた。フィブリンは、ヒトRA軟骨の石灰化促進遺伝子(Anx5、Pit1、Pc1)およびIL-6サイトカインを誘発し、軟骨細胞の石灰化を引き起こしているようであった。OAモデルでも同様のフィブリン媒介機序は観察されたが、その規模は比較的小さく、偽膜形成は認めなかった。
URL
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35660787/
コメント
血小板が出すシグナルにより多数の凝固因子が反応してフィブリノ-ゲンを分解してフィブリンをつくる。このフィブリンがプラークを形成し、生理活性物質を誘導し患部の癒着および石灰化をもたらし関節炎の発症と関連していることが示された。しかし、血小板は損傷部分を修復する成長因子を放出する働きも持っている。関節の修復と損傷には免疫系、凝固系の因子が複雑に関わっており、一つ一つ解明がなされてきている。関節炎の患者が増えてきていることから、研究の進展が治療薬の開発につながることを期待している。
監訳・コメント:関西大学 社会安全学研究科 公衆衛生学 高鳥毛 敏雄先生