難病Update

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AireAutoimmunemTECtolerance

2022.09.27

胸腺上皮細胞は細胞系統に特異的な転写因子を動員し自己反応性T細胞を除去する

Thymic epithelial cells co-opt lineage-defining transcription factors to eliminate autoreactive T cells

Daniel A Michelson*, Koji Hase, Tsuneyasu Kaisho, Christophe Benoist*, Diane Mathis

*Department of Immunology, Harvard Medical School, Boston, MA 02115, USA.

Cell. 2022 Jul 7;185(14):2542-2558.e18. doi: 10.1016/j.cell.2022.05.018. Epub 2022 Jun 16.

髄質胸腺上皮細胞(mTEC)には何千もの組織特異的な末梢自己抗原(PTA)が異所性に発現しており、胸腺が分化する際に未熟な自己反応性T細胞の除去や制御性T細胞を誘導する。mTECでのPTAの発現不全はさまざまな臓器の自己免疫疾患を引き起こす。我々は、個々のmTEC細胞でのクロマチンアクセシビリティを評価することによって、異なるmTECのサブタイプにおいて、それぞれ皮膚、肺、肝臓および腸の細胞の細胞系統に特異的な転写因子(マスター遺伝子)(Grhl、FoxA、FoxJ1、Hnf4、Sox8およびSpiBなど)がオープンクロマチン化していることを見出した。トランスクリプトーム解析および組織学的解析では、これらのサブタイプ(末梢組織の細胞と類似した遺伝子発現パターンを有していることから模倣細胞と総称する)は生物学的理論に則った方法でPTAを発現し、mTECとしての機能を維持しながらも胸腺外の細胞を模倣していることが示された。細胞系統に特異的な転写因子は模倣細胞のオープンクロマチン領域に結合し、それぞれの模倣細胞の蓄積にはこれらの特異的な転写因子が必要であったが、免疫寛容を誘導する因子であるAireは一部でしか必要とされず、また必要性にはばらつきがみられた。模倣細胞におけるモデル抗原の発現は、同種のT細胞の免疫寛容を誘導する上で十分であった。上記のとおり、mTECは細胞系統に特異的な転写因子を動員して模倣細胞の蓄積、PTAの発現および自己寛容を誘導する。

URL
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/35714609

コメント
自己抗原に反応する免疫異常(自己免疫疾患)は難治疾患に分類される疾患群の中でも多く見られ、自己反応免疫機構の解明は非常に重要なテーマであり続けている。本研究は胸腺でのT細胞のネガティブセレクションに関して今までにない知見を見出したものである。

T細胞は胸腺の皮質でポジティブセレクションを受けた後、髄質胸腺皮質細胞(mTEC)との接触で自己抗原反応性のT細胞のネガティブセレクションが行われることが知られている。mTECにおいて末梢組織自己抗原(PTA)の発現を制御する分子として、2002年に転写制御因子Aireが発見された。Aireは末梢組織に特異的な自己抗原の発現を誘導することによりT細胞を選択する、免疫学的な寛容において重要な転写因子であるとされている。しかし実際のPTAの発現制御メカニズムについては今だ十分に明らかになっていなかったため、本研究グループらはAireに注目して解析を始めた。それまで主に提唱されているモデルとしては均一集団のmTECの中でAireの制御の元で確率的、半ランダムにPTAを発現するというものが主流であったが、本研究グループはsingle cellレベルの解析で期せずしてMHA class IIを発現しmTECの性質を持ちながら、末梢の細胞系統のマスター遺伝子とその下流遺伝子群を発現している一方で他の細胞系統の遺伝子群を発現していないmTECのサブタイプが存在する事を明らかにした。またmTECのサブタイプにはAireが必須なものとそうではないものが存在することも明らかにした。

詳細なメカニズムの解析は今後の課題となるが、この現象が間違いないものであれば免疫学の教科書が書き換わるほどのインパクトのある研究であると考える。

監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科癌ワクチン療法学寄付講座 招へい教授 坪井昭博先生

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