難病Update

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CD4陽性T細胞チロシンキナーゼ阻害薬免疫チェックポイント阻害薬急性リンパ性白血病

2022.10.26

ニロチニブとPD-L1阻害の併用はCD4陽性T細胞の機能障害を回復させ急性B細胞型白血病の再発を予防する

Combining nilotinib and PD-L1 blockade reverses CD4+ T-cell dysfunction and prevents relapse in acute B-cell leukemia

Sean I Tracy 1 2 3Hrishi Venkatesh 1 2 4Can Hekim 1 2 5Lynn M Heltemes-Harris 1 2 4Todd P Knutson 6Veronika Bachanova 2 3Michael A Farrar 1 2 4
Center for Immunology.

2 Masonic Cancer Center.
3 Division of Hematology, Oncology and Transplantation, Department of Medicine, and.
4 Department of Laboratory Medicine and Pathology, University of Minnesota, Minneapolis, MN.
5 Orion Corporation, R&D, Immuno-Oncology Unit Tengströminkatu, Turku, Finland; and.
6 Minnesota Supercomputing Institute, University of Minnesota, Minneapolis, MN.

Blood. 2022 Jul 28;140(4):335-348. doi: 10.1182/blood.2021015341.

 

キメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor:CAR)T細胞および二重特異性T細胞誘導抗体(bispecific T-cell engager:BiTE)の出現により急性リンパ芽球性白血病患者の転帰は大きく改善したが、これらの進歩にもかかわらず一定割合の患者ではいまだに再発が認められる。最近、T細胞の疲弊がこれらの患者における再発の重要な要因であることが示唆された。実際、B細胞型急性リンパ性白血病(B-cell acute lymphoblastic leukemia:B-ALL)におけるCD4陽性T細胞の疲弊を示す表現型の発現は、再発および全生存期間短縮の予測因子である。したがって、免疫チェックポイントの阻害などのT細胞の疲弊を阻止する治療は、白血病に対する免疫監視機能を改善し再発を予防できる可能性がある。


本研究では、Ph陽性B-ALLのマウスモデルおよびヒトの骨髄生検の検体を用いて、CD4陽性T細胞の疲弊の本質、ならびに、抗PD-L1抗体によるチェックポイント阻害と癌タンパク質BCR-ABLを標的とするチロシンキナーゼ阻害薬の併用療法の前臨床試験における治療ポテンシャルを評価した。シングルセルRNAシーケンス解析により、B-ALLでは細胞傷害性機能とヘルパー機能を併せ持つ特異なCD4陽性T細胞サブセットが誘導されることが明らかとなった。チロシンキナーゼ阻害薬ニロチニブと抗PD-L1抗体の併用により、白血病マウスの長期生存率は著しく改善した。治療前にCD4陽性T細胞がない状態にすると、その生存率の改善は完全にみられなくなり、CD4陽性T細胞が免疫反応による白血病の防御に不可欠であることが示唆された。実際、抗PD-L1抗体の投与により、上述のヘルパーおよび細胞傷害性の表現型を有する、そして、疲弊マーカーの発現が低下した白血病特異的CD4陽性T細胞がクローン性に増殖した。これらの結果は、臨床試験におけるPD1/PD-L1チェックポイント阻害薬の使用の試みを支持するものであり、また、CD4陽性T細胞の機能障害が内因性の抗白血病反応の低下に大きく関わっていることを示している。

URL

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/35275990


コメント

免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor:ICI)は癌の治療に革新的な進歩をもたらした。癌患者の体内では癌細胞が持つ種々の抗原を認識する多種類の細胞障害性Tリンパ球(cytotoxic T lymphocyte:CTL)が誘導されているが、そのCTLの多くは免疫チェックポイントを介した抑制性シグナルにより機能障害に陥っている。ICIはその抑制性シグナルをブロックし、CTLの機能障害を解除する。

ICIが効果を発揮するためには、癌細胞を攻撃し得るCTL(それがたとえ機能障害の状態であっても)がICI投与前にすでに多く誘導されていることが重要である。また、そのためには、癌細胞の遺伝子に多くの種類の変異が蓄積されているほうが多くの種類の変異タンパク(つまり、変異抗原)が生じ、癌細胞を異物として認識するCTLが生じやすいと考えられる。この観点から言えば、急性骨髄性白血病や急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia:ALL)の多くは腫瘍細胞の遺伝子変異が少なく、したがって、それらの疾患に対するICIの効果は限定的と思われる。

本論文においては、ICIの効果が乏しいとされるB-ALLも分子標的薬をICIに併用すれば大きな効果が得られる可能性があることを、マウスBCR-ABL陽性B-ALL細胞株を用いたマウス実験(分子標的薬ニロチニブとICIの併用)により示している。また、その効果を発揮する免疫機序の解析が行われており興味深い。

監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科癌幹細胞制御学寄附講座 寄附講座教授 岡芳弘先生

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