難病Update

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チロシン脱炭酸酵素遺伝子レボドパ代謝経路微生物腸内細菌叢

2022.12.23

パーキンソン病患者における微生物由来のチロシン脱炭酸酵素遺伝子とレボドパ反応性との関連

Association Between Microbial Tyrosine Decarboxylase Gene and Levodopa Responsiveness in Patients With Parkinson Disease

Yi Zhang*, Xiaoqin He*, Chengjun Mo*, Xiaoqian Liu*, Jian Li *, Zheng Yan*, Yiwei Qian*, Yiqiu Lai*, Shaoqing Xu*, Xiaodong Yang*, Qin Xiao

*From the Department of Neurology and Institute of Neurology (Y.Z., X.H., C.M., Y.Q., Y.L., S.X., X.Y., Q.X.), Ruijin Hospital, Shanghai Jiao Tong University School of Medicine, China; Department of Neurology (X.L.), Zhoushan Branch of Ruijin Hospital, Shanghai Jiao Tong University School of Medicine, China; Clinical Research Center (J.L.), Ruijin Hospital, Shanghai Jiao Tong University School of Medicine, China; and Shanghai Institute of Nutrition and Health (Z.Y.), Chinese Academy of Sciences, China.

Neurology. 2022 Nov 29;99(22):e2443-e2453. doi: 10.1212/WNL.0000000000201204. Epub 2022 Aug 31.

近年、微生物による新たなレボドパ代謝経路が同定された。Enterococcus faecalisのチロシン脱炭酸酵素遺伝子(tyrDC)に主にコードされるチロシン脱炭酸酵素を介する経路である。本研究では、微生物由来のtyrDC遺伝子とE faecalisの存在量がレボドパ反応性と関連しているか、それによって薬剤への反応を予測できるかを明らかにすることを目的とした。この横断的研究では、2019年12月から2022年1月までの期間にパーキンソン病(PD)患者を登録し、レボドパ負荷試験でレボドパ反応性に基づいて患者を中等度の反応者と良好な反応者に層別化した。定量的リアルタイムPCR法で便検体中のtyrDC遺伝子とE faecalisの存在量を測定した。

PD患者101例が主要コホートに登録され、43例が外部検証コホートに登録された。中等度の反応者は、良好な反応者よりもtyrDC遺伝子(3.6[3.1 - 4.3] vs 2.6[2.1 - 2.9]、P<0.001)とE faecalis(3.2[2.5 - 4.4] vs 2.6[2.1 - 3.6]、P=0.010)の存在量が多かった。tyrDC遺伝子の存在量は、独立してレボドパ反応性と関連していた(OR:5.848、95%CI:2.664 - 12.838、P<0.001)。tyrDC遺伝子の存在量に基づくレボドパ反応性予測は、交差検証(C-index:トレーニングセット0.856、テストセット0.851)と外部検証(C-index:0.952)において良好な較正能と識別能を示した。

URL
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36240098/

コメント
パーキンソン病はわが国では指定難病に指定されており、L-dopaの効果の有無が判定基準の重要なポイントである。反応性が低くなる要因は様々考えられているが、消化管由来では、便秘が最たるもので、腸から吸収されるL-dopaが便秘のため胃に長時間滞在し、腸まで到達しにくいためと推測されている。今回の論文は、便の芳香族アミンの脱炭酸酵素の一つであるチロシン脱炭酸酵素の遺伝子異常により、酵素活性が高いものはL-dopaが代謝され、効果が少なくなるというものである。微生物由来のtyrDC遺伝子の存在量は、レボドパ反応性のバイオマーカーとなる可能性があり、臨床的に効果が少ない患者さんの、指定難病受理を後押しする。また、tyrDC遺伝子を標的とする新たな戦略によって、個別化されたレボドパ治療のための新たなアプローチが得られる可能性もある。

監訳・コメント:国立病院機構 大阪南医療センター 神経内科 狭間 敬憲先生

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