難病Update

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T細胞免疫急性リンパ芽球性白血病

2022.12.23

小児急性リンパ芽球性白血病における、T細胞性免疫が化学療法に対する反応性に及ぼす影響

Impact of T-cell immunity on chemotherapy response in childhood acute lymphoblastic leukemia

Yizhen Li*, Xu Yang, Yu Sun, Zhenhua Li*, Wenjian Yang*, Bensheng Ju, John Easton, Deqing Pei, Cheng Cheng, Shawn Lee*, Ching-Hon Pui, Jiyang Yu, Hongbo Chi, Jun J Yang*

*Division of Pharmaceutical Sciences, Department of Pharmacy and Pharmaceutical Sciences, St. Jude Children's Research Hospital, Memphis, TN.

Blood. 2022 Sep 29;140(13):1507-1521. doi: 10.1182/blood.2021014495.

急性リンパ芽球性白血病(ALL)は化学療法によく反応する疾患であるが、どのように、また、どのような宿主の免疫要因がこの疾患の長期寛解に影響を及ぼすかは明らかでない。これを明らかにする目的で、本研究では、T細胞による免疫がフィラデルフィア染色体陽性(Ph+)ALLの治療の転帰に及ぼす影響を系統的に評価した。Arf-/-BCR-ABL1陽性B細胞性ALLマウスモデルを用いて、我々は、宿主におけるT細胞の消失はダサチニブあるいは細胞傷害性化学療法後の白血病再発を著しく増加させることを示した。免疫機能が正常な宿主、免疫抑制状態の宿主ともに、ダサチニブ投与の早期にABL1の変異が検出されたが、薬剤抵抗性の白血病の増殖の抑制にはT細胞による免疫が不可欠であった。マウスにおいて、治療中におけるT細胞全体の、および、単一細胞(シングルセル)でのトランスクリプトーム解析で、タイプ1免疫に関連するサイトカインのシグナル伝達の活性化と白血病の長期寛解との関連が示された。これらの観察結果と一致して、in vivoでインターフェロンγおよびインターロイキン12が白血病に対するダサチニブの効果に直接的に変化を及ぼした。最後に、化学療法中のALLの小児102例において末梢血の免疫細胞の構成を評価したところ、T細胞が豊富であることと治療の転帰との間に有意な関連があるという観察結果を得た。これらの結果は、T細胞による免疫がALLの長期寛解維持に重要な役割を担っていることを示唆しており、つまり、宿主の免疫と薬剤抵抗性の関係をALLにおける化学療法の転帰の改善に利用できることを示している。

URL
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/35675514

コメント
体内で癌細胞が発生した時、個体に備わっている免疫力は、その細胞が癌細胞であるという目印を見つけて癌細胞を排除しようとする。つまり、『自己』の細胞から生じた癌細胞であるが、それを『非自己』と認識し、攻撃・排除しようとする。

癌細胞は正常細胞と異なった遺伝子発現profileを示すことが想定され、たとえば、ある遺伝子の過剰発現や、変異した遺伝子の発現などがあげられる。それらの遺伝子を鋳型にしてタンパクは作られるが、そのタンパクはペプチド断片となりHLA分子とともに細胞表面に提示される。T細胞はそれが持つT細胞レセプターによりその『HLA分子+ペプチド断片』複合体(これが前述の癌細胞の目印になり得る)を認識し、癌細胞を攻撃することができる。しかしながら、癌細胞がこのT細胞を含む免疫監視機構をすり抜けて増殖を続ければ、臨床的な癌となってしまう。つまり、癌の排除機構に免疫系は大きく関与していると考えられている。

上記から、抗腫瘍剤で白血病などの悪性腫瘍の治療をして患者が治癒に導かれた場合、その抗腫瘍剤のみの力で悪性腫瘍細胞を根絶し治癒に導くことができたのか?(つまり、最後の1個の腫瘍細胞まで抗腫瘍剤のみの力で殺されたのか?)、あるいは、そこには免疫による抗腫瘍作用も働いたのか?という疑問が提起される。本論文はこの疑問など癌の化学療法における免疫の役割についてのテーマを扱ったものであり興味深い。

監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科癌幹細胞制御学寄附講座 寄附講座教授 岡芳弘先生

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