難病Update

難病Update

B細胞リンパ腫CAR-T細胞療法CD19救済治療

2023.02.27

アグレッシブB細胞リンパ腫患者における抗CD19 CAR T細胞療法後の転帰:DESCAR-T解析

Outcomes of patients with aggressive B-cell lymphoma after failure of anti-CD19 CAR T-cell therapy: a DESCAR-T analysis

Roberta Di Blasi*, Steven Le Gouill, Emmanuel Bachy, Guillaume Cartron, David Beauvais, Fabien Le Bras, François-Xavier Gros, Sylvain Choquet, Pierre Bories, Pierre Feugier, Olivier Casasnovas, Jacques Olivier Bay, Mohamad Mohty, Magalie Joris, Thomas Gastinne, Pierre Sesques, Jean-Jacques Tudesq, Laetitia Vercellino, Franck Morschhauser, Elodie Gat, Florence Broussais, Roch Houot, Catherine Thieblemont*

 

*University of Paris APHP, Saint-Louis Hospital, Hemato-oncology, DMU DHI, Paris, France.

 

Blood. 2022 Dec 15;140(24):2584-2593. doi: 10.1182/blood.2022016945.

 

CD19キメラ抗原受容体(CART細胞療法は、再発あるいは難治性のアグレッシブ(活動性や侵攻性が高い)B細胞リンパ腫の治療に大きな進歩をもたらした。しかしながら、治療が無効となる患者も多い。フランスのDESCAR-T試験に登録された550人の患者のうち、中央値7.9カ月の追跡調査期間中に238例(43.3%)が増悪または再発をきたしていた。登録時において、57.0%の患者が年齢調整された国際予後指標(International Prognostic Index)に関しては2 - 3で、18.9%がEastern Cooperative Oncology Groupperformance status(日常生活の制限の程度)に関しては2以上で、57.1%がCAR T細胞療法前に3種類を超える種類の治療を受けており、87.8%がブリッジング療法(リンパ球採取からCAR-T細胞輸注までのあいだの病状安定化のためのつなぎの治療)を受けていた。CAR T細胞輸注時は、患者の66%が進行しつつある病状・病勢の状態で、38.9%が乳酸脱水素酵素(LDH)高値であった。CAR T細胞療法後に無効(failure)となるのは、中央値で2.7(範囲0.2 - 21.5)カ月であった。54例(22.7%)が超早期(0日 - 30)に無効となり、102例(42.9%)は早期(31- 90日)に無効となり、そして、82例(34.5%)は晩期(90日以降)に無効となった。無効となった後に154例(64%)が救済治療を受けていた。その内訳は、38.3%がレナリドミド、7.1%が二重特異性抗体療法、21.4%が標的療法、11%が放射線療法、20%が種々の薬剤を用いた免疫化学療法であった。

 

無増悪生存期間中央値は2.8カ月で、全生存(OS)期間中央値は5.2カ月であった。0- 30日の間に無効となった患者と31日以降に無効となった患者をOS期間中央値について比較すると、それぞれ、1.7カ月と3.0カ月(P0.0001)であった。全体でみれば6カ月の時点で47.9%が生存していたが、超早期に無効となりその後生存していたのはわずか18.9%であった。多変量解析では、OSの予測因子はCAR T細胞輸注時のLDH高値、無効となるまでの時間が30日未満、CAR T細胞輸注時のC反応性タンパク高値であった。この多施設共同解析で、CAR T細胞療法後に再発した患者の転帰は不良であることが確認され、そして、この患者集団を標的としたさらなる戦略の必要性が示された。

 

URL

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36122385/

 

コメント

癌抗原と呼ばれる抗原の多くは、一般的に、癌細胞の内部に存在し、その抗原タンパクはペプチドに断片化され、HLA分子とともに細胞表面に提示される。そして、その『ペプチド+HLA分子』複合体がそれを認識できるT細胞レセプター(T cell receptor, TCR)を持つCD8陽性Tリンパ球に認識され、そのCD8陽性Tリンパ球は癌細胞特異的細胞障害性Tリンパ球(cytotoxic T lymphocyte, CTL)となり癌細胞を攻撃する。癌ワクチンやチェックポイント阻害剤はこの原理を用いる。

 

一方、細胞表面に発現している抗原のある種のものは、癌細胞特異的でなくても、抗体療法、BiTEbispecific T-cell engager)療法、そして、本論文で扱っているCAR-T細胞療法の標的抗原として用いられる。本論文のCAR-T細胞療法での標的抗原のCD19はその代表的なもので、CD19Bリンパ系細胞の細胞表面に発現するlineage(分化の系統・系列)マーカーである。このCAR-T細胞療法を受けた患者のBリンパ系腫瘍(急性リンパ性白血病、悪性リンパ腫など)はCAR-T細胞により攻撃を受けるが、正常のBリンパ球も同様に攻撃を受ける。しかしながら、正常Bリンパ球の破壊に伴う免疫能低下は他の治療により補うことが可能であり、CD19を標的抗原とするCAR-T細胞療法は成り立つ。このように、CAR-T細胞治療によりダメージを受ける正常細胞の機能を臨床的に他治療で補完できる場合は、正常細胞にも発現している細胞表面抗原を標的としたCAR-T細胞療法は理論的に成立する。実際、CD19を標的抗原とするCAR-T細胞療法を受けた患者の多くで著明な抗腫瘍効果がみとめられており、その治療法は難治性のB細胞性腫瘍患者に対しての重要な治療選択枝となっている。

 

CAR-T細胞療法は、その強力な治療効果により癌治療に関しての革新的な大きな進歩をもたらした。しかしながら、その強力なCAR-T細胞治療後においても、再発・再燃する患者が一定数存在する。CAR-T細胞療法に伴う副作用は、前述したように、種々の治療により乗り切ることができても、再発・再燃率を下げる(CAR-T細胞治療の効果を増強する)努力やその再発・再燃後の救済治療の開発は今後の本質的なテーマである。

 

監訳・コメント:大阪大学大学院 医学系研究科 癌幹細胞制御学寄附講座 寄附講座教授 岡芳弘先生

一覧へ