2023.02.27
イングランドにおける男性と性交渉をもつゲイ、バイセクシャルおよびその他の男性間の性行為感染に関連する広範囲薬剤耐性・多剤耐性フレクスナー赤痢菌（Shigella flexneri）血清型2aの出現：記述疫学研究
Emergence of extensively drug-resistant and multidrug-resistant Shigella flexneri serotype 2a associated with sexual transmission among gay, bisexual, and other men who have sex with men, in England: a descriptive epidemiological study
Katie Thorley*, Hannah Charles, David R Greig, Mateo Prochazka, Lewis C E Mason, Kate S Baker, Gauri Godbole, Katy Sinka, Claire Jenkins
* UK Health Security Agency, London, UK. Electronic address: katie.thorley@ukhsa.gov.uk.
Lancet Infect Dis. 2023 Jan 30;S1473-3099(22)00807-6. doi: 10.1016/S1473-3099(22)00807-6. Online ahead of print.
細菌性赤痢（Shigellosis）は糞口接触により伝播し、海外旅行に関連した感染症であった。しかしイングランドでは近年、ゲイ、バイセクシャルおよびその他の男性間の性行為による感染症（Shigella flexneri及びShigella sonnei）となっている。2021年9月に、プラスミドに「blaCTX-M-27」を保有する広範囲薬剤耐性（XDR）ソンネ赤痢菌が出現し、拡大スペクトラム型β-ラクタマーゼ産生遺伝子を保有する赤痢菌が拡散する懸念が強まっている。そこで、英国健康安全保障庁胃腸系細菌部門（GBRU）が保有するフレクスナー赤痢菌について、「blaCTX-M-27」の保有状況を分析した。全分離株について全ゲノム解析を行い抗菌薬耐性の保有状況を判定した。2015年9月1日から2022年6月12日間の採取検体の「blaCTX-M-27」ゲノムを有するフレクスナー赤痢菌のクラスターはt10（約10の一塩基多型）の2件あった。広範囲のゲノム解析をして「blaCTX-M-27」のゲノム上の位置を明らかにした。「blaCTX-M-27」を有するフレクスナー赤痢菌の症例は26例であり、その増加は2021年9月からみられた。11症例は散発的な報告であった。フレクスナー赤痢菌2a内の「blaCTX-M-27」を有するクラスター症例は、XDR側系統クラスターの1件（8症例）、多剤耐性単系統のクラスター1件（18症例）であった。症例は成人男性（年齢中央値37歳）であり、患者質問票のあった13例中10例（77％）はMSMであった。13例中7例（54％）は抗菌薬治療を受け、4例（31％）は入院治療を受けていた。「blaCTX-M-27」を有する「IncFIIプラスミド」は、XDRソンネ赤痢菌のアウトブレイクのプラスミドと高い類似性を示していた。各クラスターのプラスミドとXDRソンネ赤痢菌のアウトブレイクのプラスミドとの間に82％および99％の高いヌクレオチド類似性がみられた。
URL
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36731481/
コメント
赤痢は、飲食物の衛生管理対策がなされ、治療薬もあることから過去の感染症と考えられている。イングランドの最近の赤痢菌を分析したところ、「blaCTX-M-27」を有するXDR・多剤耐性フレクスナー赤痢菌が増えており、その背景に男性間の性行為が関係していること、それが薬剤耐性赤痢菌の増加につながっていた。このフレクスナー赤痢菌の耐性遺伝子のプラスミドは、XDRのソンネ赤痢菌の集団感染事例のプラスミドとの類似性があることから細菌間で伝播している可能性が高い。男性間性交渉者で難治性赤痢が拡がる危険性があることから赤痢菌のゲノムベースの監視が必要であると指摘している。
監訳・コメント：関西大学大学院 社会安全学研究科 公衆衛生学 高鳥毛 敏雄先生