難病Update

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CXCL12CXCR4腫瘍制御

2023.03.28

リンパ管を介したT細胞の流出は抗原との遭遇により調節され、腫瘍制御を制限する

T cell egress via lymphatic vessels is tuned by antigen encounter and limits tumor control

Maria M. Steele*, Abhinav Jaiswal, Ines Delclaux*, Ian D. Dryg*, Dhaarini Murugan, Julia Femel*, Sunny Son*, Haley du Bois*, Cameron Hill*, Sancy A. Leachman, Young H. Chang, Lisa M. Coussens, Niroshana Anandasabapathy, Amanda W. Lund

 

*Ronald O. Perelman Department of Dermatology, NYU Grossman School of Medicine, New York University Langone Health, New York, NY, USA.

 

Nat Immunol. 2023 Feb 27. doi: 10.1038/s41590-023-01443-y. Online ahead of print.

 

免疫療法が効果を発揮するためには腫瘍内に抗原特異的CD8陽性T細胞が蓄積することが必要であるが、抗原特異的CD8陽性T細胞の腫瘍からリンパ管への流出のメカニズムはいまだ十分に理解されていない。

 

本研究では、腫瘍近傍リンパ管がケモカインであるCXCL12を介してCD8陽性T細胞の流出を調節していること、また腫瘍抗原との遭遇が腫瘍抗原特異的CD8陽性T細胞のCXCR4CXCL12のレセプター)の発現を調整していることを明らかにした。

 

結合親和性の高い抗原刺激が入った場合CD8陽性T細胞表面上のCXCR4発現の低下とCXCL12デコイ受容体であるACKR3発現の上昇が誘導され、それによりCXCL12感受性が低下してその腫瘍内蓄積が促進される。一方腫瘍抗原に遭遇しなかった機能的な腫瘍特異的CD8陽性T細胞の多様なレパートリーは腫瘍から流出することで、腫瘍制御作用を発揮するCD8陽性T細胞の蓄積が妨げられる。CXCR4の阻害あるいはリンパ管由来のCXCL12を欠損させることによりT細胞蓄積が増大し、腫瘍制御作用が高まる。

 

これらの結果から、T細胞流出を抑制する戦略は、腫瘍内におけるT細胞の質と量の両方を高め、その結果として免疫療法の効果を高めることが示唆される。

 

URL

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36849745/

 

コメント

腫瘍内に腫瘍特異的T細胞が多く集積することが腫瘍免疫療法にとり重要であることはすでに多くの報告があるが、腫瘍特異的T細胞の集積メカニズムについてはいまだに十分には明らかになっていない。今回腫瘍局所からリンパ管への流出という観点で腫瘍特異的T細胞の動態を明らかにしたのは新しくかつ興味深い。腫瘍抗原により強い刺激をうけた腫瘍特異的T細胞はターミナルエフェクター細胞に分化するとともにリンパ管が出すCXCL12への反応性を低下させることで腫瘍内にとどまりやすくなることを示した。一方強い抗原刺激を受けなかったメモリーフェノタイプのCXCR4陽性T細胞の多くはリンパ管を通して所属リンパ節に移行していた。腫瘍特異的T細胞が腫瘍近傍まで来ているのにもかかわらずターゲットの前を素通りしてしまっていることをイメージさせる。リンパ管からの流出を抑える事で治療効果を高めるアプローチは興味深く今後の腫瘍免疫療法の発展に寄与する研究と思われた。

 

監訳・コメント:大阪大学大学院 医学系研究科 癌ワクチン療法学寄附講座 招へい教授 坪井 昭博先生

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