難病Update

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aAVCWT1がん免疫療法人工アジュバントベクター細胞急性骨髄性白血病

2023.04.26

AML患者に対する治療用細胞ワクチンによる自然免疫および獲得免疫の再活性化

Reinvigoration of innate and adaptive immunity via therapeutic cellular vaccine for patients with AML

Shin-ichiro Fujii*, Toyotaka Kawamata, Kanako Shimizu,* Jun Nakabayashi, Satoru Yamasaki,* Tomonori Iyoda,* Jun Shinga,* Hiroshi Nakazato,* An Sanpei,* Masami Kawamura,* Shogo Ueda,* Jan Dörrie, Svetlana Mojsov, Madhav V. Dhodapkar, Michihiro Hidaka, Masanori Nojima, Fumitaka Nagamura, Shigemi Yoshida, Toshio Goto, and Arinobu Tojo

 

*Laboratory for Immunotherapy, RIKEN Center for Integrative Medical Science (IMS), 1-7-22 Suehiro-cho, Tsurumi-ku, Yokohama, Kanagawa 230-0045, Japan.

 

Molecular Therapy: Oncolytics Vol. 27 December 2022

DOI:https://doi.org/10.1016/j.omto.2022.09.001

 

がんに対する治療法として、自然免疫および獲得免疫の活性化を統合する戦略が望まれている。我々は、新規プラットフォームとして、ウィルムス腫瘍抗原1Wilms’ tumor antigen 1, WT1)発現人工アジュバントベクター細胞(aAVC-WT1)を確立した。それは、インバリアントナチュラルキラーTiNKT)細胞を介した樹状細胞の活性化をT細胞性免疫に結び付けるものである。今回、再発/難治性急性骨髄球性白血病の患者9例を対象に、このaAVC-WT1を初めてヒトに投与した試験(first-in-human試験)について報告する。用量制限毒性(dose-limiting toxicities)は認められず、一方で、全例においてiNKT細胞および/またはNK細胞の活性化がみられた。5例で客観性のある白血病細胞の減少がみられ、そしてそれはWT1特異的T細胞反応と相関していた。シングルセル(single-cell)レベルでRNAおよびT細胞受容体(TCR)の両方をシークエンス解析したところ、骨髄中にエフェクターCD8陽性T細胞クローンが認められた。一部の骨髄中のCD8陽性T細胞は、もとから存在していた疲弊前駆T細胞から機能的T細胞へ移行したもの、あるいは、新規活性化T細胞として出現したものであり、そしてその一部は長期間維持された。これらの結果は、aAVC-WT1療法の実施可能性および安全性を示すものであり、また、このプラットフォームがヒトにおいて自然免疫と獲得免疫の両方を活性化できることをも実証している。

 

URL

https://doi.org/10.1016/j.omto.2022.09.001

 

コメント

我々ヒトは免疫力により自己と非自己を区別し非自己のものを排除しようとする。免疫力は、明らかな非自己である病原微生物だけでなく、もともとは自己から発生した悪性新生物(がん)をも非自己と認識することによりそれを攻撃・排除し得る。その免疫は、抗原非特異的な自然免疫(innate immunity)と、抗原特異的に作動する獲得免疫(acquired immunityadaptive immunity)からなる。前者を担うものとしては、マクロファージ、樹状細胞、NK(ナチュラルキラー)細胞などがあり、後者を担う主役はTリンパ球やBリンパ球である。

 

本論文は急性骨髄性白血病(acute myelogenous leukemia, AML)に対するがん免疫療法についてのものであり、前述の獲得免疫を担うリンパ球(ここではTリンパ球)の標的抗原は多くのがんで発現しているWT1タンパクである。WT1は最も有望ながん抗原(つまり、がん免疫療法の標的抗原)の一つであり、種々の戦略・ツールを用いたWT1を標的としたがん免疫療法の研究がなされている。WT1タンパクはAML細胞内でWT1ペプチドに断片化されHLA分子とともにその細胞表面に提示される。その「WT1ペプチド+HLA分子」複合体を認識しAML細胞を攻撃するCD8陽性細胞障害性Tリンパ球が本治療法における主たるエフェクター細胞である。本研究では、aAVCと名付けられた人工細胞を作成しそれを用いることにより、自然免疫と獲得免疫をうまくリンクさせ、それによりWT1特異的CD8陽性細胞障害性Tリンパ球の活性化をもたらし抗腫瘍効果を発揮させている。実際、この治療法により臨床的に白血病細胞の減少を認めており、aAVC-WT1AMLに対する非常に有望ながん免疫治療法であると考えられる。

 

 

監訳・コメント:大阪大学大学院 医学系研究科 癌幹細胞制御学寄附講座 寄附講座教授 岡芳弘先生

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