2023.04.26
乾癬の生物学的免疫製剤治療と炎症性関節炎の発症期間との関係の検討:後ろ向きコホート研究による評価
Association between biological immunotherapy for psoriasis and time to incident inflammatory arthritis: a retrospective cohort study
Shikha Singla*, Michael Putman, Jean Liew, Kenneth Gordon
* Department of Rheumatology, Medical College of Wisconsin, Milwaukee, WI, USA
Lancet Rheumatol. 2023;5: e200–07. doi: https://doi.org/10.1016/S2665-9913(23)00034-6. Published Online March 6, 2023
乾癬患者の皮膚疾患の治療に標的生物学的免疫製剤が有効であることが示されているが、その製剤が炎症性関節炎の進行を遅らせるのかどうかは確認できていない。米国の全国患者のデータベースのTriNetXネットワークの電子カルテの情報を使い、その中の乾癬患者について後ろ向きコホート研究手法により炎症性関節炎発症までの期間を分析した。対象患者は、30日以上の間隔をおいて乾癬の国際疾病分類コードによる診断が2つある者とし、生物学的製剤を初めて処方されて治療を受けた18歳以上の者とした。生物学的免疫製剤の効果の対照として腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬を使い、インターロイキン(以下IL)-17阻害薬、IL-23阻害薬、またはIL-12/23阻害薬について評価した。乾癬と診断されて最初に各薬剤が処方されてからの炎症性関節炎発症までの期間はKaplan-Meier法を用いて比較評価した。炎症性関節炎発症期間の計算として、薬剤の最初の投与日を基準時点とし、性、年齢、臨床症状などで調整重み付けをしたCox比例ハザード回帰で解析した。感度分析として、乾癬の初発例に限り、炎症性関節炎有病例の除外期間を設け、薬剤変更などを考慮し、厳格な疾患と転帰を定義するなどを行った。
乾癬患者は、2014年1月1日 - 2022年6月1日の期間に15,501例が特定された。その平均年齢は50.2歳、性別は女性8,399例(54.2%)、男性7,102例(45.8%)、人種は白人11,175例(72.1%)であった。炎症性関節炎の発症者は15,501例中に976例(6.3%)、累積発症率は100人年当たり2.6例であった。TNF阻害薬処方患者と比較し、多変量回帰分析により各生物学的免疫製剤処方患者の炎症性関節炎の発症リスクを計算した。IL-12/23阻害薬が処方された患者の調整HRは0.58(95%CI 0.43–0.76)、IL-23阻害薬処方患者は0.41(0.17–0.95)で有意に低かった。IL-17阻害薬処方患者は0.86(0.54–1.38)で差は認めなかった。IL-12/23阻害薬は、すべての感度分析においても有意に低い結果が維持されていたが、Il-23阻害薬は、6つの感度分析のうち3つでのみ結果が維持されていた。
URL
https://www.thelancet.com/journals/lanrhe/article/PIIS2665-9913(23)00034-6/fulltext
コメント
日本の乾癬患者は約50 - 60万人と推計されている。欧米に比べると少ないが、近年日本でも患者数が増加しているようである。乾癬患者の10 - 15%に、関節や腱付着部、指に関節炎を発症している。その原因は不明であるが、患者の日常生活に影響が大きい。本研究は、炎症性関節炎の発症時期を遅らせることに対する各種の生物学的免疫製剤の効果をTNF阻害薬と比較して検討したものであった。IL-12/23阻害薬またはIL-23阻害薬を使って治療することで炎症性関節炎の発症時期を遅らせリスクを低下させるとの結果が示された。しかし、本研究は後ろ向きコホート研究であるため、今後前向きコホートや無作為化試験を使った研究により確認が必要である。
監訳・コメント:関西大学大学院 社会安全学研究科 公衆衛生学 教授 高鳥毛敏雄先生