2023.05.29
環境中の大気汚染物質濃度と臨床診断認知症との関連評価の研究-システマティックレビューとメタアナリシス-
Ambient air pollution and clinical dementia: systematic review and meta-analysis
Elissa H Wilker*, Marwa Osman, Marc G Weisskopf
*Department of Epidemiology, Harvard TH Chan School of Public Health, Boston, MA, USA.
BMJ. 2023 Apr 5;381:e071620. doi: 10.1136/bmj-2022-071620.
世界の大きな健康・疾病課題として認知症がある。認知症と大気汚染物質との関連についてシステマティックレビューとメタアナリシスを行った。対象とする研究論文はEMBASE、PubMed、Web of Science、Psycinfo、OVID Medlineの2022年7月までのものとした。研究データは、成人(18歳以上)を対象とした長期的な追跡調査研究であり、米国環境保護庁基準による大気汚染物質および交通公害の代表的な指標を用いている、曝露期間の平均が1年以上のもの、環境汚染物質と臨床認知症との関連性を報告したもの、というものとした。バイアスリスクについては、研究担当者2名が、規定のデータ抽出フォームを用いて、曝露の非無作為化試験におけるバイアスリスク(ROBINS-E)ツールを用いて独立して評価した。2,080件が抽出されたが適格基準に該当したのは51件であった。それらの研究データを用いたメタアナリシスから、「粒子状物質(PM2.5)」については14件の研究データからPM2.5 2μg/m3あたりの全ハザード比は1.04(95%CI:0.99 - 1.09)であった。Active case ascertainment法を用いた7件の研究データによるハザード比は1.42(1.00 - 2.02)であり、Passive case ascertainment法を用いた7件の研究データによるハザード比は1.03(0.98 - 1.07)であった。「二酸化窒素」については、9件の研究データからの二酸化窒素10μg/m3あたりの全ハザード比は1.02(0.98 - 1.06)であった。「窒素酸化物」については、5件の研究データから窒素酸化物10μg/m3あたりの全ハザード比は1.05(0.98 - 1.13、研究5件)であった。「オゾン」については、4件の研究からの全ハザード比は5μg/m3あたりのハザード比1.00(0.98-1.05)で、有意な関連性は認められなかった。つまり、PM2.5は認知症のリスク因子の1つである可能性があること、また二酸化窒素および窒素酸化物についても同様の結果であった。しかし、データがまだ少なく明確な結論は出せなかった。
URL
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37019461/
コメント
大気汚染物質が認知症のリスクに寄与している可能性があることはこれまで示唆されてきた。今回は、臨床確認された認知症者を指標としてリスクツールによりバイアスを厳密に評価したメタアナリシスを行った。その結果、直径2.5ミクロン未満の粒子状物質(PM2.5)の曝露及び二酸化窒素および窒素酸化物への曝露も認知症のリスク増加と関連があることが示唆された。しかし、メタアナリシスによる結果の解釈は慎重に行う必要がある。また、大気汚染物質の曝露評価及び認知症の診断基準や転帰については研究データにより違いがあったこと、認知症には今回検討した環境物質以外の要因も関係している可能性がある。今後、すべての人々を対象として、認知症者を診断して、環境物質との関係を能動的に評価する研究が必要である。本研究は、PM2.5等の大気汚染物質の曝露を規制することが疾病の社会負担の軽減やその対策に重要であることを示唆している。
監訳・コメント:関西大学大学院 社会安全学研究科公衆衛生学 教授 高鳥毛 敏雄先生