難病Update

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Dementiahearing lossobesityphysical inactivitypopulation attributable fraction

2023.09.28

オーストラリア全住民を対象とした認知症の低減可能リスクの集団寄与危険割合の人種別の検討:横断調査データを用いた解析

Potentially modifiable dementia risk factors in all Australians and within population groups: an analysis using cross-sectional survey data

Rhiann Sue See*, Fintan Thompson, Sarah Russell, Rachel Quigley, Adrian Esterman, Linton R Harriss, Zoë Hyde, Sean Taylor, Kylie Radford, Dina LoGiudice, Robyn McDermott, Gill Livingston, Edward Strivens

*Cairns and Hinterland Hospital and Health Service, Queensland Health, Cairns, QLD, Australia. Electronic address: rhiann.suesee@health.qld.gov.au.

 

Lancet Public Health. 2023 Sep;8(9):e717-e725. Doi: 10.1016/S2468-2667(23)00146-9.

 

認知症は、オーストラリア住民の疾病負担として2番目に大きい問題である。オーストラリアの全住民(先住民族、ヨーロッパ系およびアジア系の人々)を対象として、認知症の予防に関わるとして社会的に知られている12の要因(教育歴、難聴、高血圧、肥満、喫煙、うつ、社会的孤立、運動不足、糖尿病、過度の飲酒、大気汚染、外傷性脳損傷)の集団寄与危険割合(PAF)を試算してみた。ただし、外傷性脳損傷についてはデータがなかったので、推計値を用いた。オーストラリア人の集団データとして、(1)オーストラリア統計局実施のアボリジニとトレス海峡諸島民の横断健康調査(2018 - 19)、(2)アボリジニとトレス海峡諸島民の調査(2014 - 15)、(3)オーストラリア健康調査(2017 - 18)、(4)総合社会調査(2014)を用いた。外傷性脳損傷の因子については代用推定値を用いた。

外傷性脳損傷を除く認知症に関する11因子による集団寄与危険割合は、全オーストラリア人では38.2%(95%CI:37.2 - 39.2)であり、人種別ではオーストラリア先住民族では44.9%(43.1 - 46.7)、ヨーロッパ系人種では36.4%(34.8 - 38.1)、アジア系人種では33.6%(30.1- 37.2)であった。外傷性脳損傷を含めた計算では、全オーストラリア人のPAFは40.6%(39.6 - 41.6)であった。リスク因子ごとのPAFは、運動不足8.3%(7.5 - 9.2)、難聴7.0%(6.4 - 7.6)、肥満6.6%(6.0 - 7.3)が大きな因子であり、この3つの因子のPAF合計値が約半分を占めた。オーストラリア人の認知症のかなりの割合が予防可能であることが示された。認知症の予防可能性が最も高かったのは先住民族であった。ただし、その予防戦略実施にあたっては、人種・文化的な側面の配慮が必要で住民と協議して合意のもとで進めるべきと考える。

 

URL

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37633680/

コメント

人口の高齢化とともに認知症者数が増加傾向にありその予防対策が課題となっている。本研究は、認知症のリスク因子として知られている12の因子の集団寄与危険割合を推計したものであった。PAFは、疾患のリスクとして弱い因子でも地域の予防対策に重要な因子を教えてくれる重要な指標である。本研究での検討結果をみると、認知症の34 - 45%は生活関連要因を制御することにより予防可能であるとの結論であった。寄与危険割合は、人種間の違いが認められた。ただし、人種により文化、歴史、慣習が異なっているため、認知症予防のためとして一律な生活スタイルの改善を押しつけることは好ましいものではなく、地域住民との協議を行い慎重に進める必要があるとしている。

監訳・コメント:関西大学大学院 社会安全学研究科 公衆衛生学 教授 高鳥毛 敏雄先生

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