難病Update

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PD-1阻害幹細胞様CD8 T細胞抗PD-1療法

2023.09.28

PD-1阻害により幹細胞様CD8 T細胞の自己複製が増加して、エフェクター分化による同細胞の減少を補う

PD-1 blockade increases the self-renewal of stem-like CD8 T cells to compensate for their accelerated differentiation into effectors

Amanda L. Gill*, Peter H. Wang, Judong Lee*, William H. Hudson*, Satomi Ando, Koichi Araki, Yinghong Hu*, Andreas Wieland, Sejin Im, Autumn Gavora*, Christopher B. Medina*, Gordon J. Freeman, Masao Hashimoto*, Steven L. Reiner, Rafi Ahmed*

 

*Emory Vaccine Center and Department of Microbiology and Immunology, Emory University School of Medicine, Atlanta, GA 30329, USA.

 

Sci Immunol 2023 Aug 4;8(86):eadg0539. doi: 10.1126/sciimmunol.adg0539. Epub 2023 Aug 25.

 

PD-1阻害後にPD-1陽性幹細胞様CD8 T細胞の自己複製が増進して、同T細胞のエフェクター細胞への分化による減少が補われることが明らかになった。PD-1陽性TCF-1陽性幹細胞様CD8 T細胞は、慢性ウイルス感染症およびがんにおけるT細胞免疫の維持に重要な役割を果たすため、この結果はヒトにおけるPD-1標的免疫療法にとって重要な意義を有する。

 

PD-1陽性TCF-1陽性幹細胞様CD8 T細胞には、プログラム細胞死蛋白質-1PD-1)阻害療法後にエフェクターCD8 T細胞分化の亢進がみられる。しかし、これに伴ってこれらの幹細胞様前駆細胞数が減少するかどうかは不明である。そこでこの研究では、慢性リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)感染マウスモデルを用いて、このことについて検討した。

 

慢性LCMV感染マウスに対して抗αPD-1抗体または抗αPD-L1抗体を投与したところ、ウイルス特異的幹細胞様CD8 T細胞のエフェクター細胞への分化が亢進した一方、同細胞の自己複製も増加してその数が維持された。ウイルス特異的幹細胞様CD8 T細胞の自己複製は、mTORシグナル伝達依存的であった。これら前駆細胞の分裂について顕微鏡観察を行ったところ、PD-1阻害後の分裂細胞において、自己複製したTCF-1陽性姉妹細胞とともに、分化したTCF-1陰性娘細胞が認められた。この非対称的な分裂により幹細胞様細胞数が維持された。さらに、PD-1陽性TCF-1陽性幹細胞様CD8 T細胞では、ウイルス感染およびPD-1阻害に対する反応に関して、その転写プログラムおよびin vivoでの機能性が維持された。以上の結果から、PD-1阻害によって幹細胞様細胞数は維持されたままエフェクター細胞への分化が亢進することが明らかになった。

 

URL

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37624909/

 

コメント

PD-1抗体療法(阻害療法)がT細胞上のPD-1に結合して抑制シグナルの伝達をブロックすることでT細胞の活性化を維持したり、抗腫瘍効果を回復させるということはよく知られている。今回マウス実験ではあるがPD-1阻害療法が抗腫瘍CD8陽性T細胞の増殖、維持に効果的に働くことを示した。ヒトについては今後の解析が待たれるがPD-1阻害療法の新たな側面が明らかになるかもしれないと思いこの論文を取り上げた。

 

監訳・コメント:大阪大学大学院 医学系研究科 癌ワクチン療法学寄附講座 招へい教授 坪井 昭博先生

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