難病Update

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CD38T細胞エンゲ―ジャー多発性骨髄腫

2023.10.31

再発・難治性多発性骨髄腫に対するCD38 × CD3 T細胞エンゲ―ジャーであるISB 1342の前臨床における特性解析

Preclinical characterization of ISB 1342, a CD38 × CD3 T-cell engager for relapsed/refractory multiple myeloma

Blandine Pouleau*, Carole Estoppey, Perrine Suere*, Emilie Nallet*, Amélie Laurendon, Thierry Monney, Daniela Pais Ferreira*, Adam Drake*, Laura Carretero-Iglesia*, Julie Macoin*, Jérémy Berret*, Maria Pihlgren*, Marie-Agnès Doucey*, Girish S. Gudi, Vinu Menon, Venkatesha Udupa, Abhishek Maiti, Gautam Borthakur, Ankita Srivastava, Stanislas Blein, M. Lamine Mbow*, Thomas Matthes, Zeynep Kaya, Claire M. Edwards, James R. Edwards, Emmanuelle Menoret, Charlotte Kervoëlen, Catherine Pellat-Deceunynck, Philippe Moreau, Eugene Zhukovsky*, Mario Perro*, and Myriam Chimen*

*Department of Oncology, Ichnos Sciences SA, Epalinges, Switzerland.

Blood. 2023 Jul 20;142(3):260-273. doi: 10.1182/blood.2022019451.


抗CD38モノクローナル抗体ダラツムマブによる多発性骨髄腫(MM)患者の治療はその生存を大きく延長させるが、治療抵抗性が生じることは避けがたい。ISB 1342は、ダラツムマブに対して感受性の低い再発・難治性多発性骨髄腫(r/r MM)患者を標的とするようにデザインされたものである。ISB 1342は、BEAT(Bispecific Engagement by Antibodies based on the TCR)プラットフォームを用いて開発された二重特異的抗体であり、腫瘍細胞上のCD38にダラツムマブとは別のエピトープで強い親和性を示すFab部位と、致死的となりうるサイトカイン放出症候群のリスクを軽減する目的でT細胞上のCD3εへの結合能を弱めたscFv部位を有する。ISB 1342は、in vitroで、様々なCD38発現レベルの細胞株を、ダラツムマブ感受性が低い細胞株を含め、効率的に殺滅した。多種類の作用機序による細胞傷害活性をみることができるキリングアッセイにおいて、ISB 1342はダラツムマブよりも高い細胞毒性を示した。この活性は、ダラツムマブを逐次併用または同時併用で用いた場合も保持された。ISB 1342の効果は、ダラツムマブ既治療患者の骨髄サンプル(それらはダラツムマブに対する感受性が低い)でも維持された。2つのマウス治療モデルにおいて、ISB 1342は、ダラツムマブとは異なり、完全な腫瘍制御を誘導した。最後に、ISB 1342はカニクイザルにおいて許容できる毒性プロファイルを示した。これらの結果は、ISB 1342は前治療のCD38に対する2価モノクローナル抗体に抵抗性となったr/r MM患者の治療選択肢になり得ることを示唆した。ISB 1342は現在、第1相臨床試験の段階に入っている。

URL
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37192303/

コメント
多発性骨髄腫の治療は著しい進歩を遂げた。従来は、アルキル化剤やステロイドが中心であったが、現在は、それらに加えて、プロテアゾーム阻害剤、サリドマイドやそれと類似の化学構造を持つもの、抗体医薬品(CD38抗体)などが使用できる。また、年齢や内臓機能などの条件が合えば、大量化学療法とそれに続く自家造血幹細胞移植(患者自身の造血幹細胞を前もって保存しておき、大量化学療法後に患者に戻し造血機能を回復させる)も実施可能である。さらに、最近では、再発・難治性のものに対してはBCMAを標的としたCAR-T細胞療法の施行も考慮される。

本論文で紹介されている抗CD38抗体は、従来のCD38抗体とは異なる部位(エピトープ)を認識するものである。また、より重要なことは、この抗CD38抗体とCD3εに対する抗体を連結したものを作成したことである。これを生体に投与することにより、CD38を発現している骨髄腫細胞のところにT細胞を引き寄せることができ、つまりT細胞エンゲージャーとして働き、T細胞の持つ強い殺細胞能を利用して骨髄腫細胞を攻撃することができる。今後、多発性骨髄腫に対する新たな治療選択肢が加わることが期待される。

監訳・コメント:大阪大学大学院 医学系研究科 癌幹細胞制御学寄附講座 寄附講座教授 岡芳弘先生

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