難病Update

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B細胞成熟抗原(BCMA)Elranatamab二重特異性抗体多発性骨髄腫

2023.11.29

再発・難治性多発性骨髄腫に対するelranatamab:MagnetisMM-1第1相試験

Elranatamab in relapsed or refractory multiple myeloma: the MagnetisMM-1 phase 1 trial

Nizar J Bahlis*, Caitlin L Costello, Noopur S Raje, Moshe Y Levy, Bhagirathbhai Dholaria, Melhem Solh, Michael H Tomasson, Michael A Damore, Sibo Jiang, Cynthia Basu, Athanasia Skoura, Edward M Chan, Suzanne Trudel, Andrzej Jakubowiak, Cristina Gasparetto, Michael P Chu, Andrew Dalovisio, Michael Sebag, Alexander M Lesokhin

*Arnie Charbonneau Cancer Institute, University of Calgary, Calgary, AB, Canada. nbahlis@ucalgary.ca.

Nat Med. 2023 Oct;29(10):2570-2576. doi: 10.1038/s41591-023-02589-w. Epub 2023 Oct 2.

多発性骨髄腫(MM)はB細胞成熟抗原(BCMA)を発現する形質細胞の悪性腫瘍である。Elranatamabは二重特異性抗体であり、MMのBCMAとT細胞のCD3に結合する。MagnetisMM-1試験ではelranatamabの安全性、薬物動態、有効性を評価した。用量制限毒性の発生率、奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)を含む主要評価項目は達成された。有効性の副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)とした。再発または難治性MM患者88例はelranatamabの単剤療法を受け、55例はelranatamabの有効用量での投与を受けた。患者は中央値で5レジメンの治療歴があり、90.9%は3クラス抵抗性であり、29.1%は細胞遺伝学的リスクが高く、23.6%はBCMA標的療法の治療歴があった。用量漸増時に用量制限毒性は認められなかった。有害事象には血球減少およびサイトカイン放出症候群が含まれた。中央値12カ月の追跡調査期間で、ORRは63.6%であり、38.2%の患者が完全奏効以上を達成した。レスポンダーに関して、DORの中央値は17.1カ月であった。微小残存病変が評価可能な13例の患者はすべて陰性を達成した。以前のBCMA標的療法後でさえ、53.8%は奏効を達成した。全55例の患者に関して、PFSの中央値は11.8カ月、OSの中央値は21.2カ月であった。MM患者に対して、elranatamabは持続的な奏効、管理可能な安全性、有望な生存期間を達成した。

注釈;3クラス抵抗性:免疫反応調整薬、プロテアソーム阻害剤、抗CD38抗体の3系統の薬剤に抵抗性がある

1:サリドマイド(thalidmide)ならびにその副作用を軽減した誘導体であるレナリドミド(lenalidomide)およびポマリドミド(pomalidomide)などの一連の化合物を総称して免疫反応調整薬(Immunomodulatory drugs)とよぶ。

 

URL

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37783970/

コメント

多発性骨髄腫に対する治療法は新規薬剤や造血幹細胞移植などにより近年急速に進歩してきたが、それでも治療抵抗性な症例があり、骨髄腫に多い高齢者で完治が難しい状態は続いている。そこで骨髄腫抗原を標的とした免疫療法が注目されている。骨髄腫抗原は様々探索されているがCD38、BCMAが先行している。免疫療法のアプローチも種々あり抗体療法、CAR-T療法と本論文で取り扱っているCD3と骨髄腫抗原を結びつける重抗体療法などがある。本研究は難治性骨髄腫症例を対象としたBCMAとCD3を結ぶ重特異的薬Elranatamabの第1相試験であるが抗体既存薬剤に抵抗性のある症例に対して、良好な治療成績で有害事象も許容内とされている。次のフェーズの治験が待たれる。

監訳・コメント:大阪大学大学院 医学系研究科 癌ワクチン療法学寄附講座 招へい教授 坪井 昭博先生

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