難病Update

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fallsGlobal Burden of Disease Study 2019long-term disabilityroad injuriesspinal cord injury

2023.11.29

1990 - 2019年の世界的、地域別および国別にみた脊髄損傷の負担:Global Burden of Disease Study 2019の系統的解析

Global, regional, and national burden of spinal cord injury, 1990–2019: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2019

GBD Spinal Cord Injuries Collaborators. Corresponding author: Mahdi Safdarian*

 

*Department of Neurology, Christian Doppler University Hospital, Paracelsus Medical University, Centre for Cognitive Neuroscience, Salzburg 5020, Austria.

 

Lancet Neurol. 2023 Nov;22(11):1026-1047. Doi: 10.1016/S1474-4422(23)00287-9.

 

脊髄損傷は、早期の死亡や長期の障害などの健康上の問題をもたらし、またそのケアに対する社会負担が大きい重大な障害である。本研究は、Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors StudyGBD2019のデータを用いて、1990 - 2019年の間の脊髄損傷について、年齢、性別、年数、損傷の原因の推移を明かにするために行ったものである。解析はベイズメタ解析ツールDisMod-MR 2.1を用いている。世界の21GBD地域および204ヵ国における脊髄損傷の発生率、有病率、ならびに脊髄損傷によって失われた年数(以下、YLD)について推計し、推計値に95%不確定区間(95UI))を付与している。

 

2019年には、世界で20,600,000人(18,900,000 - 23,600,000)が脊髄損傷を有していると推計された。その発生率は900,000人(700,000 - 1,200,000)、推定YLD6,200,000人(4,500,000 - 8,200,000)であった。1990年から2019年を比較すると脊髄損傷の有病率は81.5%(74.2 - 87.1)、発生率は52.7%(30.3 - 69.8)、YLD65.4%(56.3 - 76.0)増加していた。しかし、年齢調整を行った数値では、有病率は5.8%(2.6 - 9.5)、発生率は-6.1%(-17.2 - 1.5)、YLDは-1.5%(-5.5 - 3.2)であり、変化はわずかであった。2019年のデータでは、脊髄損傷の発生率は15 - 19歳までに急激に上昇し、その後は85歳以上に至るまでほぼ一定であった。有病率とYLDは、45 - 54歳でピークが認められる同じパターンであった。脊髄損傷の発生率、有病率、およびYLDともに女性より男性の方が高かった。男女とも1990 - 2019年の間にわずかであったが増加傾向にあった。脊髄損傷の部位を頸椎レベルの上下で分けてみると、1990 - 2019年の間には、上下の発生率(492,000354,000 - 675,000]対417,000290,000 - 585,000])、有病率(10,800,0009,500,000 - 13,900,000]対9,700,0009,200,000 - 10,400,000])、YLD4,200,0003,000,000 - 5,800,000]対1,900,0001,300,000 - 2,500,000])であり、頚椎上位レベルの者の方が高かった。2019年の脊髄損傷の2大原因は、転倒(477,000327,000 - 683,000]例)および交通事故(230,000122,000 - 389,000]例)であった。

 

1990 - 2019年の間、脊髄損傷の年齢調整の発生率、有病率、およびYLDはわずかな上昇しかみられなかったが、人口増のため絶対数はかなり増加していた。脊髄損傷の発生状況は、人口構造、また空間的、時間的なパターンに国や地域により違いが大きいことから、国や地域の状況を考慮して対応する必要がある。

 

URL

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37863591/

 

コメント

脊髄損傷は、潜在的な長期障害、平均寿命の短縮、生活の質の低下、および医療制度への影響、個人への多大な負担を強いる障害である。脊髄損傷の発生率は人口100,000人あたり1.2 - 5.8人と幅が大きい。その発生率と有病率の正確な推定値は、科学的根拠に基づいた医療計画と資源配分のためには不可欠な情報である。本研究は、脊髄損傷について、GBDの共同研究者による最初の研究であり、その発生率、有病率、障害を抱えて生きる生存年数について、年齢、性別、傷害の原因によって層別化し、脊髄損傷の予防と資源配分の指針作成に必要な数値を得るために行ったものである。本論文は世界規模の脊髄損傷の政策決定者に実践的な予防戦略を進めることに役立つ可能性がある。

 

監訳・コメント:関西大学大学院 社会安全学研究科 公衆衛生学 教授 高鳥毛 敏雄先生

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