Perry B Shieh*, Nancy L Kuntz, James J Dowling, Wolfgang Müller-Felber, Carsten G Bönnemann, Andreea M Seferian, Laurent Servais, Barbara K Smith, Francesco Muntoni, Astrid Blaschek, A Reghan Foley, Dimah N Saade, Sarah Neuhaus, Lindsay N Alfano, Alan H Beggs, Ana Buj-Bello, Martin K Childers, Tina Duong, Robert J Graham, Minal Jain, Julie Coats, Vicky MacBean, Emma S James, Jun Lee, Fulvio Mavilio, Weston Miller, Fatbardha Varfaj, Michael Murtagh, Cong Han, Mojtaba Noursalehi, Michael W Lawlor, Suyash Prasad, Salvador Rico
*Department of Neurology, David Geffen School of Medicine at UCLA, Los Angeles, CA, USA. Electronic address: pshieh@mednet.ucla.edu.
Lancet Neurol. 2023 Dec;22(12):1125-1139. doi: 10.1016/S1474-4422(23)00313-7.
X連鎖性ミオチュブラーミオパチー(X-linked myotubular myopathy)は患者の生後短期間に生命を脅かす
MTM1遺伝子変異によって引き起こされる先天性筋疾患である。承認された治療薬がない難病である。本研究は、ヒト
MTM1遺伝子を送達するアデノ関連ウイルスベクター血清型8を用いて、人の遺伝子を送達するためにレサミリゲン・ビルパルボベック(resamirigene bilparvovec)を使った治験であり、その安全性および有効性を評価するために行ったオープンラベル用量漸増試験である。対象者は、X連鎖性ミオチュブラーミオパチーの人工呼吸器を必要とする5歳未満の男児とした。患者をⅠ群とⅡ群の2群に分けた。Ⅰ群にはレサミリゲン・ビルパルボベックを投与し安全性を確かめて用量漸増試験を実施した。Ⅰ群の者を低用量群[1.3×10¹⁴ベクターゲノム(vg)/kg体重]及び遅延治療者に分けた。遅延治療者は、その後高用量群(3.5×10¹⁴ vg/kg体重)と遅延治療群に2:1の比で無作為に割り付けた。Ⅱ群は、Ⅰ群で選択された用量の確認を行うグループである。レサミリゲン・ビルパルボベックの投与は静注単回とした。対照群は、他の導入試験に参加した男児と投与を受けなかった遅延治療群の男児とした。主要有効性転帰評価は1日の人工呼吸器装着時間とし、ベースラインから24週目までの変化をみた。治験は3例の予期しない死亡者が発生した時点で中断した。本研究結果は、2022年2月28日時点のものである。
対象患者は、カナダ、フランス、ドイツ、米国の大学医療センターの7施設の2017年8月3日 - 2021年6月1日に登録された30例であり、その中の26例を治験対象とした。対象者を低用量群6例、高用量群13例、遅延治療群7例に割り付けた。遅延治療群1例はその後低用量投与を受けたので「低用量群」は7例となった。遅延治療群7例中4例はその後高用量投与を受けたので「高用量群」は17例となった。遅延治療群2例はその後投与を受けなかったため対照群に含めたので「対照群」は14例となった(他の治験参加の男児12例を含む)。解析はas-treatedで行った(群間の症例重複あり)。各群の年齢中央値は低用量群12.1ヵ月、高用量群31.1ヵ月、対照群18.7ヵ月であった。追跡調査期間中央値は、低用量群46.1ヵ月、高用量群27.6ヵ月、対照群28.3ヵ月であった。24週目の時点で、1日当たり人工呼吸器装着時間のベースラインからの減少量は、低用量群77.7%(95%CI:40.22 – 115.24、p=0.0002)、高用量群22.8%(95%CI:6.15 - 39.37、p=0.0077)であった。
低用量群1例と高用量群3例の合計4例の死亡があった。死亡男児はすべて胆汁性肝不全をきたしていた。投与群の直接死因は、それぞれ①敗血症、②肝障害/重症免疫機能不全/シュードモナス性敗血症、③消化管出血、④敗血性ショックであった。対照群の3例の死亡者の直接死因は、それぞれ①肝紫斑病との関連が推定される出血、②誤嚥性肺炎、③心肺不全であった。レサミリゲン・ビルパルボベックの投与を受けた男児のほとんどは人工呼吸器依存状態および運動機能の大きな改善を認めた。半数以上は人工呼吸器からの離脱を達成して独立して歩行できるようになった。今後の課題として肝胆道疾患があるリスクの検討ならびに遺伝子置換療法の実施前の肝機能評価のあり方の検討がある。
URL
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37977713/
コメント
X連鎖性ミオチュブラーミオパチー(X-linked myotubular myopathy)は、生後2年以内の死亡率が高く、承認されている治療薬がない。単一遺伝子変異疾患であることから遺伝子置換療法で治療できる可能性がある。本研究では、MTM1相補的DNAを送達する治験中のアデノ随伴ウイルス媒介遺伝子置換療法として開発したレサミリゲン・ビルパルボベックを投与して効果をみた最初の試験である。治験薬の単回投与の実施で、重度患者の1日人工呼吸器使用時間を大幅に減少させ、一部の者では人工呼吸器が自立するという予想外の結果が得られた。
しかし、4人の投与者が治療後に死亡し、全員が死亡時に胆汁うっ滞性肝不全を患っていた。これまで患者に胆汁うっ滞性肝疾患の傾向があることは知られていなかった。今後、この疾患の自然史において、肝胆道疾患の発症の意味とアデノ随伴ウイルス媒介遺伝子治療との関係や潜在的相互作用の検討が必要である。しかし、本研究は、遺伝子置換療法の将来の大きな可能性を期待させるものである。
監訳・コメント:関西大学大学院 社会安全学研究科 公衆衛生学 特別契約教授 高鳥毛 敏雄先生