2024.02.28
UKバイオバンクデータを使った認知症前の精神疾患診断と全原因による認知症関連の多遺伝子性認知症リスクとの関連の検討
Association between pre-dementia psychiatric diagnoses and all-cause dementia is independent from polygenic dementia risks in the UK Biobank
Yun Freudenberg-Hua*, Wentian Li, Un Jung Lee, Yilong Ma, Jeremy Koppel, Alison Goateg
* Center for Alzheimer's Disease Research, Institute of Molecular Medicine, The Feinstein Institutes for Medical Research, Northwell Health, Manhasset, NY, USA; Division of Geriatric Psychiatry, Zucker Hillside Hospital, Northwell Health, Glen Oaks, NY, USA. Electronic address: yfreuden@northwell.edu.
EbioMedicine. 2024 Jan 31:104978. doi: 10.1016/j.ebiom.2024.104978. Online ahead of print.
認知症前の精神疾患(predementia psychiatric disorder:PDPD)が、認知症の確立された遺伝的リスクといかに関係しているかを理解することは認知症予防にとって重要なことである。そこで、UKバイオバンクのデータ(UKB)を用いて、アルツハイマー病の多遺伝子リスクスコア(AD PRS)、PDPD、アルコール使用障害(AUD)、およびその後の認知症発症との因果関係があるのかについて検討を行った。UKBは、2006年から2010年の間に登録された英国の37 - 69歳の50万人を超える参加者を対象とした加齢関連疾患のリスクを研究するためにすべての参加者についてベースライン時に遺伝的感受性、ライフスタイル、環境などの多くの危険因子について評価し、参加者の過去および将来にわたる医療記録にアクセスするインフォームドコンセントを得た前向きコホート研究のための集団である。
UKBの502,408人中に認知症の者が9,352人いた。AD PRSは認知症の高リスクと関連が認められた(オッズ比1.62、95%CI:1.59 - 1.65)。認知症を発症した者の割合は、PDPDの者では2.6%(94,237人中2,519人)、PDPDでない者では1.7%(407,871人中6,833人)であった。PDPDの者の発症リスクが73%高かった(OR 1.73、95%CI:: 1.65 - 1.83)。サブタイプ別にリスクをみると、ADは1.5倍(3,365人、OR 1.46、95%CI::1.34 - 1.59)、血管型認知症(VaD)は2倍(1,823人、OR 2.08、95%CI: :1.87 - 2.32)であった。
これらの結果からPDPDは認知症の前駆症状とは言えないこと、またPDPDはAD PRSと関連していないことが示されたが、認知症に対する直接の原因として関与している可能性は否定できなかった。AUDはPDPDと認知症に共通する原因の一つである可能性があると示唆され、精神疾患の診断がなされている者は認知症発症と関連があることは認められたがこの関連は認知症の遺伝的リスクとは独立していた。
URL
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38320878/
コメント
統合失調症やうつ病などの精神疾患が将来の認知症のリスクの上昇と関連しているとの報告がこれまでされている。しかし、精神障害が認知症の既知の遺伝的危険因子と関連しているのかについての検討はなされていない。そこで、大規模コホート集団のデータを用いて、後ろ向きコホート研究手法を使って検討した。その結果、精神疾患とその後の認知症との関係については認知症の既知の関連遺伝的リスクとは無関係であることが示された。認知症の前段階の精神障害は認知症の既知の遺伝的リスクを媒介していないことが示された。ただし、アルコール使用障害などに共通する危険因子が精神障害と認知症の両方に寄与する可能性がありこれについては今後さらに検討する必要がある。
監訳・コメント:関西大学大学院社会安全学研究科公衆衛生学 特別契約教授 高鳥毛敏雄先生