2024.05.30
ダウン症候群と優性遺伝性アルツハイマー病の患者におけるタウ分布領域の比較:断面的調査研究
Comparison of tau spread in people with Down syndrome versus autosomal-dominant Alzheimer’s disease: a cross-sectional study
Julie K Wisch*, Nicole S McKay, Anna H Boerwinkle, James Kennedy, Shaney Flores, Benjamin L Handen, Bradley T Christian, Elizabeth Head, Mark Mapstone, Michael S Rafii, Sid E O’Bryant, Julie C Price, Charles M Laymon, Sharon J Krinsky-McHale, Florence Lai, H Diana Rosas, Sigan L Hartley, Shahid Zaman, Ira T Lott, Dana Tudorascu, Matthew Zammit, Adam M Brickman, Joseph H Lee, Thomas D Bird, Annie Cohen, Patricio Chrem, Alisha Daniels, Jasmeer P Chhatwal, Carlos Cruchaga, Laura Ibanez, Mathias Jucker, Celeste M Karch, Gregory S Day, Jae-Hong Lee, Johannes Levin, Jorge Llibre-Guerra, Yan Li, Francisco Lopera, Jee Hoon Roh, John M Ringman, Charlene Supnet-Bell, Christopher H van Dyck, Chengjie Xiong, Guoqiao Wang, John C Morris, Eric McDade, Randall J Bateman, Tammie L S Benzinger, Brian A Gordon, Beau M Ances, the Alzheimer’s Biomarker Consortium-Down syndrome, the Dominantly Inherited Alzheimer Network
* Department of Neurology, Washington University in St Louis, St Louis, MO, USA. Electronic address: julie.wisch@wustl.edu.
Lancet Neurol. 2024 May;23(5):500-510. doi: 10.1016/S1474-4422(24)00084-X.
ダウン症候群や優性遺伝性アルツハイマー病の患者では若年時には脳内にアルツハイマー病に特異的な病理変化(アミロイドおよびタウの蓄積)が生じていることが報告されている。若年性アルツハイマー病患者の早期病理変化の分析を行うことが、予防介入する研究や臨床試験の実施には重要である。そこで、ダウン症候群と優性遺伝性アルツハイマー病の患者の脳内タウ蛋白質の分布の程度と空間的な範囲や時間的な分布順序を比較することにより検討した。対象患者は2つのコホート研究集団から選んだ。1つは、Dominantly Inherited Alzheimer's Network研究(DIAN-OBSとDIAN-TU)である。このコホートから2008 - 2022年にオーストラリア、欧州、および米国における優性遺伝性アルツハイマー病の遺伝子変異保有者と遺伝子変異非保有者の家族(対照群)を選んだ。2つ目はAlzheimer Biomarkers Consortium-Down Syndrome研究である。このコホートから2015 - 2021年に英国と米国のダウン症候群の患者とその患者の兄弟(対照群)を選んだ。2つのコホート研究の対照者を統合して1つの対照群とした。
全ての者に、構造MRIおよびタウPET(18F-flortaucipir)イメージングを実施し、混合ガウスモデルを使ってPET上でタウ病変量が多い領域、およびタウ結合の初期変化を認める領域を特定した。特定領域におけるPET上のタウ病変量を皮質アミロイド量との関連で推定した。またPET上のタウ蛋白質病変量の経時的変化パターンをアミロイドと比較検討した。
ダウン症候群の患者は、男性74例(54%)、女性63例(46%)の総計137例(平均年齢38.5歳)であった。優性遺伝性アルツハイマー病の患者は、男性22例(45%)、女性27例(55%)の総計49例(平均年齢43.9歳)であった。対照群は、男性28例(33%)、女性57例(67%)の総計85例(平均年齢41.5歳)であった。全例がタウPETイメージング処理のPET質管理手順を満たしていた。タウPETイメージング後3年以内にアミロイドPETスキャンを受けた者は、ダウン症候群患者134例(98%)、優性遺伝性アルツハイマー病患者44例(90%)、対照者77例(91%)であった。PET上のタウ病変が高頻度に認めた領域は、ダウン症候群の患者では皮質下および内側側頭葉であった。優性遺伝性アルツハイマー病の患者では内側側頭葉であった。脳全体のアミロイド濃度との関連ではダウン症候群患者の方にタウ濃度が高かった。経時的にもダウン症候群の患者の方にタウの増加とアミロイドの増加との強い関連が認められた。タウ増加後に脳全体アミロイドが増加することは両患者の同様な現象であった。しかし、タウ病変量の領域別の分布、経時的な変化、および量は両者で違いが認められた。
URL
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38631766/
コメント
ダウン症候群および常染色体優性アルツハイマー病の初期にタウ蛋白質が蓄積されていることは確認されている。本研究は、ダウン症候群および常染色体優性アルツハイマー病の患者をもとに、コホート研究集団から一定数の患者数を確保して、PETを使ってタウの分布やタウの空間的広がりを比較検討したものであった。アミロイド負荷と比較してタウ負荷の大きさとタイミングをみるとダウン症候群患者の方がタウ蓄積の規模が大きく明確な時間的パターンがあったとしている。
両疾患においてタウ蛋白質の蓄積の経時的パターン、タウ病変の領域別パターンと量の違いがあることは、臨床試験の実施にあたり両疾患の違いを分析することによって抗タウ薬をいつ投与すべきかを明らかにする臨床試験のやり方に影響を与える可能性がある。
監訳・コメント:関西大学大学院社会安全学研究科公衆衛生学 特別契約教授 高鳥毛敏雄先生