難病Update

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Marcoイソアロリトコール酸原発性硬化性胆管炎(PSC)慢性炎症性肝疾患非アルコール性脂肪肝炎(NASH)

2024.05.30

門脈周囲マクロファージは腸内細菌が誘導する肝炎に対して保護作用を有する

Periportal macrophages protect against commensal-driven liver inflammation

Yu Miyamoto*, Junichi Kikuta*, Takahiro Matsui*, Tetsuo Hasegawa*, Kentaro Fujii*, Daisuke Okuzaki, Yu-chen Liu, Takuya Yoshioka, Shigeto Seno, Daisuke Motooka, Yutaka Uchida*, Erika Yamashita*, Shogo Kobayashi, Hidetoshi Eguchi, Eiichi Morii, Karl Tryggvason, Takashi Shichita, Hisako Kayama, Koji Atarashi, Jun Kunisawa, Kenya Honda, Kiyoshi Takeda, Masaru Ishii

 

* Department of Immunology and Cell Biology, Graduate School of Medicine and Frontier Biosciences, Osaka University, Osaka, Japan.

 

Nature. 2024 May;629(8013):901-909. doi: 10.1038/s41586-024-07372-6. Epub 2024 Apr 24.

 

肝臓は腸管からの主要な入り口(関所)である。門脈から中心動脈への一方向性の類洞血流は門脈周囲静脈(PV)領域および中心静脈領域が含まれる不均一な領域を経由する。しかし各領域における免疫系の機能的な差異は十分に解明されていない。

 

本研究では、生体内イメージングにより炎症反応がPV領域において抑制されていることが示された。領域別のシングルセル・トランスクリプトミクスにより、PV領域には免疫抑制作用を有するマクロファージが豊富に存在することが確認された。このマクロファージは、インターロイキン-10とスカベンジャー受容体であるMarcoを高レベルに発現している。Marcoは炎症促進性の病原体関連分子パターン(PAMPs)およびダメージ関連分子パターン(DAMPs)を奪って免疫応答を抑制する作用がある。免疫抑制作用を有するMarco陽性マクロファージの誘導は腸内細菌叢に依存していた。特に、特定の細菌属に属するOdoribacteraceae(オドリバクターラネウス)はその代謝物であるイソアロリトコール酸を介してこのマクロファージを誘導することが確認された。腸管バリアの破綻はPV領域の炎症をもたらし、これはMarco欠乏条件下で顕著に亢進していた。原発性硬化性胆管炎(PSC)や非アルコール性脂肪肝炎(NASH)などの慢性炎症性肝疾患では、Marco陽性マクロファージの減少が認められた。Marco陽性マクロファージの機能消失により、動物モデルにおいて大腸炎やNASHの脂肪症増悪に関連するPSC様炎症表現型が認められた。

 

これらをまとめると、片理共生腸内細菌は免疫抑制作用を有するMarco陽性マクロファージを誘導し、その結果、門脈領域において過度の炎症が抑制される。この自己調整システムの破綻がPSCNASHなどの炎症性肝疾患を促進する。

URL

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38658756/

コメント

類洞内のマクロファージは古くからクッパー細胞として知られているが、門脈周囲静脈(PV)領域と中心静脈領域(CV)では性質の違う2種類のマクロファージ細胞(クッパー細胞)が存在していることを示した。CVの方のマクロファージは腸管から侵入した腸内細菌に反応して免疫を惹起するのに対して門脈周囲静脈(PV)領域に存在するマクロファージは腸内細菌に対して起こる免疫反応を抑制して保護することを明らかにした。またこの保護的に働くマクロファージはある種の腸内細菌がつくるイソアロリトコール酸により誘導されることを明らかにしている。イソアロリトコール酸を用いて保護マクロファージを誘導することで肝臓の炎症を予防・治療する新しい医療技術の開発が期待される。

監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科 癌ワクチン療法学寄附講座 招へい教授 坪井 昭博先生

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